武蔵村山高の野球部は自主性に委ねられるチームカラーだった。谷井はそこで自らフォームを探求する。

　参考にしたのは通算7度もノーヒットノーラン達成したノーラン・ライアン。高3春から「身長（181センチ）がそこまで高くないなかで球速を出すために、位置エネルギーをもらって並進運動に繋げるようにしています」と、高々と足を跳ね上げるフォームに変えた。

　この他にも、骨盤を二塁方向に捻じるトルネード気味のテイクバックは2020年MLBセーブ王のジョシュ・ヘイダー（パドレス）、胸の使い方は人類最速となる170キロを投げ込んだアロルディス・チャップマン（ヤンキース）、リリースは最速160キロを投じるタイラー・グラスノー（レイズ）とMLBの名選手たちのエッセンスをふんだんに詰め込んだ。

　高校では最後の夏も西東京大会で初戦敗退と、実績らしい実績は作れなかったが、140キロ台後半の球を投じるまでに成長した谷井は、自宅から通える位置にあった明星大のセレクションを受けた。見事合格を勝ち取ると、指揮官とともに「大学3年春」でのデビューに照準を定め、まずは怪我しない体づくりに励んだ。

大学3年でリーグ戦デビュー「衝撃の155キロ」

　2年間のトレーニングの成果か、谷井は3年春に衝撃的なデビューを果たす。

　首都大学2部リーグの開幕戦・足利大戦で投じたのは最速155キロのストレート。まったくの無名投手であったことも含めて、観る者の多くを驚かせた。幸運にも1学年上に権田琉成（TDK）や山本恵大（ソフトバンク）といったドラフト候補が揃っていたこともあり、谷井はスカウトたちの目に留まることになる。

　だが、やはり目立つのは豪速球以上に制球力の悪さ。春の入替戦で起用された際にはバックネットにそのままボールが直撃することや右打者の後ろを通るボールもあったほど。しかし、それでも明星大首脳陣は、谷井の個性を消さない選択をした。

【次ページ】　「暴れてもいいから感覚をつかめ」