この時まで朝青龍は初顔合わせの相手に23連勝していた。専門誌は教習所時代の関係も鑑みながら、波乱を期待するかのように両者の対戦を“幻のゴールデンカード”と謳った。稽古場では得意の小手投げで互角の戦いを演じていただけに春日王自身も「楽しみだし、自信はある」と臨んだ結びの一番だった。

　ところが、本人や周囲の期待に反して、あっさりと決着はついた。春日王はほぼ何の抵抗もできないまま、すくい投げを食らって土俵に転がされた。これには伏線があったという。

「場所前に出稽古で横綱と一緒になって、指名されて10番ぐらい続けて稽古したんです。その時にとにかく突っ張ってきたので、本場所でも突っ張ってくるんだろうなと思っていた。まわしを取ったら勝てた時もあったので、立ち合いで耐えて組めばなんとかなるんじゃないかと」

　しかし、朝青龍は突っ張るそぶりなど微塵も見せずにもろ差しを狙いにきた。あっと思った瞬間には、両脇を深々と差され、その時点で為す術はなくなった。

　次の巡業で会った時、朝青龍はクロマティばりに頭を指差してニンマリしたという。「俺とお前じゃここが違うんだよ」。場所前から周到に張られた勝利への伏線。初顔相手にそこまでやり込む朝青龍の勝利への執念に春日王はまた感心させられたのだった。

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朝青龍からの電話「キム、何やってんだよ？」

　八百長問題に絡んで引退した後、春日王はメーカー勤務で香港駐在などを経験し、現役時代からの夢でもあった実業家になった。

「中国にいたときもそうなんですけど、相撲をやっていたおかげで色々なお客さんが興味を持ってくださって縁もできた。相撲のおかげで今の自分があるんだなと思ってます」

　大相撲への感謝と愛着を持ち続け、本場所もチェックしている。相撲をとる機会はもうなくなったが、トレーニングで鍛え続けている体でいつか若い衆に胸を出してみたいという思いを抱く。

　同じように角界を離れて実業家となった朝青龍とも交流が続いている。

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