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大学部活の現実「月1万5000円の部費がツラい」金銭面で退部者続出…「地方国立、弱小、資金難」信州大アメフト部が選んだ“法人化”という劇薬 

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山崎ダイ

山崎ダイDai Yamazaki

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posted2022/09/06 17:00

大学部活の現実「月1万5000円の部費がツラい」金銭面で退部者続出…「地方国立、弱小、資金難」信州大アメフト部が選んだ“法人化”という劇薬<Number Web>

「地方、弱小、資金難」“三重苦”の信州大アメフト部はなぜ“法人化”という選択をしたのか

「何回も説明してもらって、部員としても『やろう!』と。事務的な作業は多少増えますが、逆に言えば自分たちがスポンサーにアピールすることで自身の負担を減らすことができることも分かった。それがモチベーションにもなりました」(南主将)

 そうして今年4月、ついにチームは法人化へと舵を切った。

 ただ、当然だが法人化したからといって、すぐにチームに劇的に資金が集まるわけではない。

 いまはOBたちの伝手を辿って、地元企業などへスポンサードのお願いをしている段階だという。それでも「一歩ずつ効果は出てきている」と中村は言う。

「少しずつですけど寄付を集めることができていて。そのおかげで、例えば遠方で開催されるクリニックに行くこともできました。あとはXリーグのコーチの方が長野まで来てくれて、いろいろとアドバイスを頂く機会もあった。こういった交流も法人化の影響だったと思います。ただの大学の1クラブでは難しいでしょうから、資金面だけでなく、活動自体に興味を持ってもらえたということだと思います」

 現在、特に力を入れているのはSNSでの発信だという。

 昨年までは担当部員の裁量次第という部分があったが、更新頻度や内容などまで理事会で話し合い、計画的にアピールできるようにしているという。また、チームのオンラインミーティングにOBや企業関係者を招き、部員紹介や練習内容など自分たちの活動内容を周知する機会も定期的に作っているそうだ。来年6月には法人の本拠地を置く伊那市の協力もあり、スポンサーを募っての試合も開催する方向だという。

「地方国立、弱小、資金難」の信大だからこそ…

 実は大学体育会チームの法人化というのは信大が初めてではない。アメリカンフットボールの世界では前述のように京大、次いで東大がすでに先鞭をつけているし、競技の枠を広げれば、慶大のラグビー部や明大のサッカー部なども法人化を行っている。

 だが、これらの大学はいずれも日本一を争う、もしくは学力的な面も含めて注目度が高い日本トップのチームだ。大手企業にOBたちも豊富におり、ある意味で企業からのスポンサーも得やすい環境にある。

 しかし、国内を見渡してみれば多くの大学はそんな恵まれた状況にないことがほとんどだ。一方で今後は、そういった資金難にあえぐ大学こそが法人化という手段を取るケースが増えていくことが想定される。

 だからこそメディアに取り上げられやすく、規模も大きい上記のような大学たち以上に「地方、弱小、資金難」という三重苦を抱える信大の法人化の向かう先こそが、実は多くのチームの未来を占う試金石なのではないか。

 前出の山下はこう苦笑する。

「僕ら、現状は大学アメフト界だと底辺に近いチームだと思うんですよ。『信大ごときが法人化?』と最初はハナで笑われると思うんです。東大だから上手くいくし、京大だから上手くいく。慶應だからスポンサーがつく。『法人化は強豪、特色校だから上手くいく』――そう言う人は多いでしょう。

 でも、逆にマイナス要素がある中で良い成績を残せれば、他の地方大学も言い訳ができなくなると思うんです。そうすれば全体の底上げにもなるし、なにより大学アメフト界が一番盛り上がる。社会人のXリーグも外国人選手を入れたりして、トップは上手くいっているのかもしれない。でも、下のチームは選手が入らないとか、スポンサーが離れて廃部になるとか、問題も起きている。そういう部分への底上げも含めて、何か1つのヒントが提供できればと思っています」

 だからこそ、山下は「まずは数年のうちに確固たる結果を出さなければいけない」という。4年間で選手が入れ替わる学生スポーツの世界だからこそ、せっかくシステムを変えてもダラダラとやっていたら、伝統は途絶え、有名無実化してしまうからだ。

「まずは所属する東海リーグの制覇。長い目で見れば日本一。そういう風に結果を残すことで、『長野県の、信大のアメフト部って、なんかすごいね』と思ってほしい。そうすればスポンサードしてくれる県内の企業のアピールにもなるし、将来的には部員がそういった企業に就職して……という形で地元密着のサイクルができると良いのかなと思います」

 9月3日に開幕した今シーズンの初戦。信大は名城大と戦い、13-53で敗れた。

 法人化という“劇薬”をもってしても、スポーツの世界は一朝一夕で強くなるものではないのだろう。

 ただ、それでもこの日、法人としての信大アメフト部は確かな一歩を記録した。彼らがこれから作る轍は、どんな形を描いていくのだろうか。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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