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スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「私が生きているうちに東北勢の優勝は見られないのか」7年前、悲しい準優勝で思わず本音…仙台育英を変えた2年前「1-17」大敗
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/08/26 17:11
東北勢初優勝を果たした仙台育英。108年目にして悲願の「白河越え」を達成した
須江監督は、就任当時から選手層の分厚さで勝ち抜こうという意図がハッキリとしていた。
2019年は投手4枚を作り上げ、準々決勝に進出した。相手は奥川恭伸擁する星稜である。
この試合、星稜も決勝までの勝ち上がりを見越してエースの奥川を温存、一方の須江監督は1年生の伊藤樹にマウンドを託した。伊藤は現在、早稲田大学の1年生で、春のリーグ戦でも実力の片鱗を見せている。しかし、このときはまだ若かった。2回に5点を失い、仙台育英は奥川を引きずり出すことなく1対17で敗れた。
2022年、頂点を極めた仙台育英は140キロ以上の球速を持つ5人の投手で優勝をたぐり寄せたが、2019年のこの敗戦が須江監督のビジョンの強化を果たしたと見る。球数制限によって複数投手の養成が優勝への鍵とされているが、ひとつ上の次元のチームを作ってしまった。
来年も、きっと仙台育英は強い
これまではエースの代わりがいないのが高校野球であり、その物語が生み出す力にわれわれは魅了された。
しかし、仙台育英は違う。「集団劇」によって優勝したからだ(私にはエピソードによって主役が入れ替わる三谷幸喜の『鎌倉殿の13人』とイメージがつながっている)。
投手たちは分業によって消耗を抑えることが出来ている。彼らの将来もまた、楽しみではないか。
優勝後のインタビューで、「青春ってすごく密」という名言を残した須江監督には、コロナ禍でディスタンスが強調される社会で、教育者として忸怩たるものがあったのだろう。
須江監督の功績は、コロナ禍の社会状況のなかで、これまでの文脈とは違った形で最強のチームを作り上げたことだ。
そうしたチームが宮城から生まれたことが、私にはうれしい。
そして来年も、きっと仙台育英は強い。
私はこれから何年生きられるか分からないが、もう一度、宮城、もしくは東北6県から優勝校が出ることを信じて疑わない。
<前編から続く>