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近江の控え投手に「思いっきり抱きしめたる!」 劇的満塁弾、高松商との激闘…スタンド挨拶後に”主人公”山田陽翔が流した“涙の理由”
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/08/21 17:01
山田陽翔と近江の夏が甲子園に別れを告げた。“青き英雄たち”の戦いを振り返る
「思いっきり抱きしめたる!」
試合後、そう言って山田に抱きしめられた星野は、照れくさそうに自分を褒めた。
「『少しは力になれたかな』と心の底から思えて、嬉しかったです」
甲子園史に刻まれた“青き英雄たちの姿”
ヒーローは、ひとりでは輝かない。
ただし、世間の印象は違う。
自分は心底チームを信じ切っていても、多くは近江を「山田のチーム」と言う。エースで4番のキャプテン。注目と責任。時には辛さを感じたこともあるのではないか?
山田が質問を吟味するように頷く。反応に否定的な色はない。ただ真っすぐに、自らの思いのたけを結んだ。
「本当に辛い、苦しいなんてことは一切ない2年半でしたね。近江高校野球部の仲間がいたから楽しかった。ここまで来ることができたのはみんなの支えがあったからなのは間違いないです。最高の仲間です」
近江の夏の終わりを告げるサイレンが鳴る。
湖国の象徴、琵琶湖のように澄んだ応援団に一礼し、山田が叫ぶ。
「ありがとう!」
一粒の雫が頬を伝う。自分を輝かせてくれた「最高の仲間」も泣いている。山田は背筋を伸ばし、穏やかに声をかけた。
「胸を張っていこう!」
秋風が近江を優しく包み込む。
温かくも寂しげな拍手に見送られ、青き英雄たちは胸を張り、甲子園に別れを告げた。
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