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近江の控え投手に「思いっきり抱きしめたる!」 劇的満塁弾、高松商との激闘…スタンド挨拶後に”主人公”山田陽翔が流した“涙の理由”
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/08/21 17:01
山田陽翔と近江の夏が甲子園に別れを告げた。“青き英雄たち”の戦いを振り返る
「僕は160キロを投げられるわけではないですし、ホームランを50本も60本も打てるわけではありません。『今を大事に』『今を全力で』と言いますか、気持ちでいくしか取り柄がないと思っています」
山田は、最後まで山田だった。芯の通った想い。それを体現したのである。
3回戦で満塁弾、それでも“主人公”は…
初戦の鳴門戦で、守備の乱れをカバーする力投で8回13奪三振。2回戦の鶴岡東戦は、序盤に失点した自らのピッチングを反省してギアを上げ、12奪三振の完投で挽回した。
真っすぐなプレーは、人の心を躍らせる。
3回戦の海星戦でホームランを見舞ったその雄姿は、まるでマンガの世界から飛び出してきた正統派ヒーローのようだった。
2-1の7回2死満塁。カウント2ボールになった時点で、4番バッターの山田は打席で意志を固めていた。
「スライダーが続けてボールになったので、満塁ですし『フォアボールだけは出したくないだろうな』と、真っすぐを張っていました」
3球目。待っていた高めストレートを強振すると、打球は甲子園の夜空を切り裂くように放物線を描き、レフトスタンドに到達した。
監督の多賀章仁は「持ってる男だ」としみじみ称えていたものだが、山田は試合を決める一発を自分だけの手柄にはしなかった。
「僕自身の力ではあんなホームランは打てません。甲子園が力を貸してくれたこともありますが、一番はスタンドと球場、選手が一丸となったから打てたのかな、と思います」
あの高松商戦…リリーフ星野に「抱きしめたる!」
この試合で山田は、8回から星野にマウンドを譲っている。2回を無失点に抑えた左腕に対し、「星野にならマウンドを任せてもいいくらい、大きな戦力が増えた」と喜んだ。
これはキャプテンでもある山田にとって、チームの進歩を感じられた瞬間でもあった。センバツから「山田以外のピッチャーが課題」と言われ続けてきたなか、この甲子園で星野がひとり立ちしたのである。
チームを語る際の山田の言葉には、いつだって「仲間」がいた。
「自分を信じて、仲間を信じて野球をやれば、自然とチームがいい雰囲気になります。ベンチやグラウンドからバッター、ピッチャー、守っている野手の背中を押してあげられる」
山田と浅野翔吾の真っ向勝負に注目が集まった高松商戦。右太ももをつった影響で8回のピンチで降板したエースに代わり、浅野を抑えて難局を切り抜けたのが星野だった。