甲子園の風BACK NUMBER
大阪桐蔭戦から一転「今までにない」“アウェー”でも下関国際が信じた合言葉…“近江寄りだった甲子園の手拍子”が変わった瞬間とは
posted2022/08/21 17:00
text by
間淳Jun Aida
photograph by
Hideki Sugiyama
同じ場所でプレーしているはずなのに、まるで空気が違う。2日前に大観衆を味方につけ、優勝の大本命・大阪桐蔭に勝利した下関国際。準決勝は“アウェー”だった。
下関国際は準々決勝の大阪桐蔭戦、1点を追う9回表に2点を奪って試合をひっくり返した。この時、チームの力となったのが観客だった。
泥臭く食らいついて王者を追い詰める姿に、甲子園は拍手と歓声で包まれた。下関国際の坂原秀尚監督は試合後、「球場の雰囲気がガラッと変わり、かなり大きな後押しでした」と勝因の1つに挙げた。一方、大阪桐蔭の星子天真主将は「手拍子がすごくて、呑み込まれそうになりました」と話している。絶対的な強さを見せていた王者でさえも、平常心を失う空気だった。
人気者・山田がいる近江に対する拍手にも…
準決勝の相手は今春のセンバツで準優勝した近江。出場校の中でナンバーワンの人気チームと言える。
特に「エース」「4番」「主将」の3役を担う山田陽翔投手は見る者を惹きつける力がある。山田投手がブルペンに入るだけで観客は移動して写真を撮り、スタメン発表では拍手と大歓声が起きる。
観客の力を知っている下関国際は、いつ呑み込まれてもおかしくない状況で戦っていた。1点を先制した直後の初回、下関国際の先発・古賀康誠投手は1アウトから、2番打者にフォアボールを許す。まだ、試合は始まったばかり。一塁に走者を出しただけだったが、甲子園には拍手が響く。続く打者が送りバントを決めると、さらに大きな拍手が起きる。
そして、4番・山田投手の名前がアナウンスされると、地鳴りのような拍手へと変わる。古賀投手が山田投手を空振り三振に斬った瞬間、歓声は溜息に変わった。
リードを2点に広げて迎えた3回の守備。前の回からマウンドを引き継いだ下関国際の仲井慎選手は1点を失って、なおも2アウト三塁のピンチで近江の山田投手と対峙する。近江のブラスバンドの演奏に合わせ、球場に響く手拍子。完全アウェーの状況だった。仲井選手は山田投手をサードゴロに打ち取ったかに見えた。
しかし、やや深めに守っていた三塁手が捕球しようと前に出ると、打球はサードベースに当たって高く上がり、レフトへと抜けていった。運までも、相手に味方した。
5回の満塁のピンチでは一番大きな手拍子が起きたが
近江が走者を出した時、ピンチをしのいだ時、聖地は沸いた。だが、下関国際の選手が“逆風”に影響されることはなかった。2番手で登板し、3番打者としても先制打を放った仲井選手は表情を変えずに振り返る。