近江の控え投手に「思いっきり抱きしめたる！」 劇的満塁弾、高松商との激闘…スタンド挨拶後に”主人公”山田陽翔が流した“涙の理由”

　キャッチャーの大橋大翔は、ボールに本来の勢いがないとすぐにわかった。

「試合前の投球練習で真っすぐが走っていなかった。明らかに疲労が溜まっているなと」

苦しんだ“下関国際の粘り”

　日本一まで2勝と、頂を視界に捉えつつあった下関国際との準決勝。近江のエース・山田陽翔からすれば、「ボールが走っていない」ことは単なる事実であり、打たれる言い訳にも免罪符にもならない。

「試合を重ねていくたびに疲れが溜まっていくのはどの選手も同じことなので。例年に比べるとかなりましでしたし、コンディションとしてはまだまだいけるな、と」

　その山田に、疲労とは別のダメージが蓄積されていく。

　初回、1死二塁から相手の3番・仲井慎にストレートをレフト前に運ばれ、山田が「一番しんどかった」と悔やむ。相手打線に低めのボールを見極められ、粘りのバッティングもされ球数が増す。3回に1点。同点の6回には、2者連続フォアボールと送りバント（野選）で1死満塁のピンチからツーベースを打たれ、決定的な2点を与えてしまった。

「食らいついてこられたので、自分もきわどいところに投げすぎました。そういう意識を持たされたことが負けに繋がりました」

下関国際の粘りに苦しんだ山田 ©Hideki Sugiyama

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　山田は左腕の星野世那にマウンドを託し、7回途中からライトに回った。

　6回2/3を投げ5失点。絶対エースが打たれ、近江は敗れた。

「気持ちでいくしか取り柄がない」夏前に語っていたこと

　この夏、山田は5試合に登板し644球を投じた。怪我に耐えながらマウンドに上がり549球投げたセンバツとは違い、力尽きたわけではない。むしろ、最後まで全力だった。

　夏前に話していた言葉を思い出す。

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