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《怪物・清原に打たれた男たち》PL学園に挑んだ山口・宇部商、2人の同級生投手の明暗「投げられないなら、出ません」「決勝で先発するなんて全く…」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byMasanori Tagami/Tomohiro Furutani
posted2022/08/21 17:26
宇部商のライバル投手だった田上昌徳(左)と古谷友宏
3年春の選抜、古谷は憧れの甲子園にやってきたが、登板はおろか、ブルペンで準備することさえなかった。チームは2回戦で敗れた。田上と一緒に乗った帰りの新幹線、古谷は思わず、つぶやいた。
「ああ……。俺、せめて甲子園のブルペンで投げておくんだった。もう2度と、投げられないかもしれないのにな」
「田上に勝たないと試合には出られない」
学校へ戻ると、甲子園出場記念に業者のカメラマンが撮ってくれた写真が貼り出されていた。各自が欲しいカットに名前を書く。ただ、古谷は書き込むことすらできなかった。
「僕の写真が1枚もなかったんですよ。注文しようにもできない。悔しかったですね……。あれから、心に火がついたというか、あらためて、田上に勝たないと試合には出られないんだということがわかったんです」
田上が10本走ったら、古谷は20本走った。いつものように、2人で電車で帰る。それから真っ暗な河川敷を1人、走った。そうやって、来るべき時を待っていた日陰の男に、その時は突然、やってきた。
<つづく>
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