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《怪物・清原に打たれた男たち》PL学園に挑んだ山口・宇部商、2人の同級生投手の明暗「投げられないなら、出ません」「決勝で先発するなんて全く…」 

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鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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photograph byMasanori Tagami/Tomohiro Furutani

posted2022/08/21 17:26

《怪物・清原に打たれた男たち》PL学園に挑んだ山口・宇部商、2人の同級生投手の明暗「投げられないなら、出ません」「決勝で先発するなんて全く…」<Number Web> photograph by Masanori Tagami/Tomohiro Furutani

宇部商のライバル投手だった田上昌徳(左)と古谷友宏

「田上、お前のせいや」――嗚咽は慟哭に

 同じく2年生ながら、レギュラーとしてグラウンドにいた桂は、その光景を目に焼き付けていた。仲間に抱き起こされ、ベンチに戻っても泣き続ける田上、その背中を3年生の先輩が抱き寄せて、こう言った。

「田上、お前のせいや。お前のせいで負けたんや。だから、今度は絶対、お前が甲子園に連れて行けよ」

 田上の嗚咽は慟哭になった。それが、桂たちの「原点」になった。1球の大切さ、怖さ、悔しさ。勝つために必要なことを田上の涙とともに、胸に刻んだのだ。

 だから、桂は、田上を決勝に連れて行ってやりたかった。最後の夏、エースをKOされたままで終わらせたくなかった。最大5点差からの反撃が始まった。じわじわと追い上げ、8回、ついに宇部商は同点に追いつくと、9回裏には2死満塁で桂に打席がまわってきた。

「僕は普段、あまり感情を出して野球をやることはないんですが、あの時だけは田上のために打ちたい、打たなきゃいけないと思いましたね」

 食らいついた打球は決していい当たりではなかったが、右前に落ちた。感情を爆発させるサヨナラ打の主将に、真っ先に抱きついてきたのは、ベンチから飛び出してきた田上だった。宇部商はついに、PL学園にたどり着いたのだ。

明日はバッターとして…非情な通告

 ただ、その夜、田上は宿舎に戻ると、監督に呼ばれた。

「田上、明日はバッターとして活躍してくれ」

 非情の通告だった。覚悟はしていた。それでも、いざ、言われると頭が真っ白になった。受け入れることができなかった。清原の顔が頭に浮かんでいた。

「僕は出ません。投げられないくらいなら、出ません」

「お前、何言ってるか、わかってんのか!」

 エースと監督が押し問答になった。とても、決勝戦を控えたムードではなかった。

「結局、レフトで出ることになりましたが、こんな気持ちの俺が出ていいのかって思ったんです。僕が出ることでレギュラーだった奴が決勝に出られなくなる。いまだにそいつの顔はまともに見られませんよ」

【次ページ】 14番目の男の告白「決勝で先発するなんて…」

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