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聖地はキヨハラを受け入れるのか? 甲子園100回大会に訪れた清原和博を待っていた重苦しい緊迫「なんで、こんなに暗いんですか…」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/08/20 17:06
甲子園100回大会決勝に訪れた清原和博(2018年8月撮影)
つとめて軽い調子で清原にそう言った。
「ええ......」
清原は力のない答えを返しただけだった。
「少し混んでいるみたいですけど、約束の時間には着くみたいですから、大丈夫ですよ」
「はい......」
それから車内はラジオの音だけになった。宮地は甲子園を目前にして、再び重苦しい沈黙の中に身を置くことになった。清原の胸に何が広がっているのかは宮地にも分かった。
清原が甲子園から拒絶される可能性
これから清原は審判を受けにいくのだ。
100回記念大会の決勝戦を迎えた甲子園球場はかつてなく厳粛な空気に包まれているだろう。そこへ執行猶予中の清原が足を踏み入れる。人々はかつての英雄をどう迎えるだろうか。強く光を浴びたがゆえに深い闇に落ちた者を聖地はどう裁くのだろうか。宮地にはそこで何が起こるのか想像することはできなかったが、清原が甲子園から拒絶される可能性があるということだけは分かった。
これまでは甲子園の決勝にたどり着くことだけを希望にしてきたが、じつはたどり着いた先に待っているのはさらなる絶望かもしれないのだ。もしそうなれば、今よりさらに深い闇へ落ちることになる。清原は甲子園球場へ向かう段になって、初めてそのことに気づいたのだ。
タクシーはそんな宮地の心とは裏腹に高速道路をよどみなく滑っていった。いくつかの川を越え、武庫川インターを降りると、フロントガラスの向こうに甲子園球場が見えてきた。上空に黒い雲を頂いた聖地は厳しい表情で2人の来訪者を見下ろしているようだった。
フロントガラスを雨粒が叩いたのはそのときだった。次第に大きさを増していく雫がタクシーの窓に歪んだ縞模様を描き始めた。
なぜ、こんなときに......。隣に座る清原の顔からはもう完全に光が消えていた。宮地は思わず空を睨み、恨んだ。そして、せめて自分だけは俯かずにいようと決めた。