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聖地はキヨハラを受け入れるのか? 甲子園100回大会に訪れた清原和博を待っていた重苦しい緊迫「なんで、こんなに暗いんですか…」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/08/20 17:06
甲子園100回大会決勝に訪れた清原和博(2018年8月撮影)
判決を待つような緊迫感
ーー甲子園球場へ繫がる薄暗い通路には男たちの靴音だけが響いていた。
「大丈夫ですよ」
宮地はそう言うと通路を歩く清原の横に並んだ。かつて遠くから見上げるだけだった清原をこんなに近くに感じるようになったのはいつからだろう。清原の消え入りそうな息づかいを聞きながら、宮地には逆に自分の中に一本の芯が通るような感覚があった。
どれくらい歩いただろうか。やがて視界が開け、ロビーのような空間に出た。天井に蛍光灯が並んだだけの装飾のない通路を大会関係者らしき人々が慌ただしく行き交っていた。そこはもう甲子園球場だった。
球場ロビーの端に一台のエレベーターがあった。それを上がればスタンドに出るのだという。遠くから届く無数のざわめきが、スタジアムが満員に膨れ上がっていることを伝えていた。
エレベーターは男たちを乗せると、音もなく上がっていった。試合直前の場内アナウンスが微かに聞こえてきた。扉が開けば、そこに決勝戦の舞台が広がっている。清原は静まり返った空間のなかでじっと目を閉じていた。判決を待つような緊迫感があった。
いつしか宮地は天を恨むことをやめていた。脳裏にはこれまでの日々が浮かんでいた。清原にはいろいろなことがあった。あり過ぎた。それを思うと甲子園球場に向けて祈らずにはいられなかった。
せめて、この男に光を見せてやってくれーー。
<つづく>