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「そんなこと、できるんですか?」清原和博が甲子園100回大会に向けた特別な思い「息子が生まれたとき、この子が高1になったら…」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/07/30 17:02
2016年に覚醒剤取締法違反で逮捕され、執行猶予中だった清原和博(2018年撮影)
「息子が生まれたときね、この子が高校1年生になったら100回大会なんやって、そう思ったんですよ」
清原は黙っているあいだ、ずっとそのことを考えていたようだった。
「それでもし、息子が甲子園に出たら、ドラマチックやなって......」
清原は部屋の大きな窓を見上げた。
息子というのは2002年の夏に生まれた長男のことだった。中学に上がるまでは野球をしていたが、清原が逮捕された後に辞めた。それから父子は一度も顔を合わせていないのだという。
「気になるなら、甲子園に行ったらどうですか?」
もう叶うことのない夢を清原は語っていた。
「そうか、もう100回大会なんですね……」
清原は何かを考え、躊躇っているようだった。私たち2人だけしかいない部屋にはいつものように沈黙が流れていたが、これまでとはどこか違っていた。無言の先に何かが待っているような気配があった。
「気になるなら、甲子園に行ったらどうですか?」
気づけば私はそう口走っていた。
清原は呆気にとられたような顔で私を見た。テーブルの上に視線を落としてから、確かめるようにもう一度、私を見た。
「そんなこと……できるんですか」
感情を失った眼の奥が微かに揺れていた。
<#1、#2から読む>
【著者インタビュー動画】
「清原和博を追い続け、何が見つかったのか。ノンフィクション界話題の作家・鈴木忠平に聞く」
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。