Number ExBACK NUMBER
「そんなこと、できるんですか?」清原和博が甲子園100回大会に向けた特別な思い「息子が生まれたとき、この子が高1になったら…」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/07/30 17:02
2016年に覚醒剤取締法違反で逮捕され、執行猶予中だった清原和博(2018年撮影)
初夏のよく晴れた日、私は編集長と30過ぎの担当編集者とともにホテルの一室で清原」を待った。誰も言葉を発しなかった。他の2人は、これから何を見ることになるのか、という不安で身を硬くしているようだった。私にも緊張はあったが、一方で期待も抱いていた。脳裏にはあの夜の清原の声がよみがえっていた。
「必ず戻りますから、待っていてください―ー」
「なんか捜査員みたいですね…」
昼下がり、約束の時間を少し過ぎたころに部屋のドアが開いた。清原は、髪を金色に染めたマネージャーらしき人物の背中に身を隠すようにして入ってきた。黒いジャージの上下をまとっていた。服を着ているというよりは服が巨体にぶら下がっているという表現がふさわしかった。眼に光はなく、焦点が定まっていなかった。それでいて宙を泳ぐ視線は明らかに私たちを避けていた。夢と現の狭間でひどく何かに怯えている人間のように見えた。
清原は大きなガラステーブルを挟んで向こう側に腰を下ろすと、ボソリと言った。
「なんか捜査員みたいですね……」
場の空気が止まった。清原が何のことを言っているのか分からず、私たちは思わず顔を見合わせた。
「取調べを受けるみたいなんです。そのスーツが……」
清原は私たちが着ていたダークスーツにちらりと視線を投げると顔を歪ませた。それが冗談まじりの笑みなのか、あるいは苦渋の表情なのかは判別がつかなかった。清原の前にはダイエット用のコーラとグラスが置かれていたが、それに手をつけることすら億劫な様子だった。限りなく重たい雰囲気のままインタビューは始まった。
「覚醒剤を使っていないと明言できますか?」
まず冒頭に編集長が口を開いた。
「これは最初に聞かせてください。逮捕され、保釈されてからここまで、覚醒剤を使っていないと明言できますか?」
それはたしかに取材者として訊かなければならないことだった。
清原は視線をきょろきょろとさせた。それから透明のグラスに注がれたコーラをひと口喉に流し込むと、「ええ……」と小さく頷いた。
「いろんな人を裏切ってしまった後悔が大きいので、今のところ使いたい気持ちにはならないというのが正直なところです。これから先、どうなるかは分からないですけど、逮捕されてから今までは……そういう気持ちです」
清原はそこまで言うとコーラをまたひと口飲んだ。グラスを持つ手が小刻みに震えていた。それを見て、私は躊躇いながら問いを発した。
「人生に満ち足りていたはずの清原さんが、なぜ覚醒剤を使う必要があったのでしょうか……」
清原は苦しそうに答えた。