「とにかく言われたのはインハイに合わせろということ」

　落合の言葉の中で、松井の印象に残っているのがまずそのことだった。

「インハイのストレートさえ打てれば、あとはどこでも打てると言っていましたね。インハイのストレートが一番、バッターにとって時間がないところで、そこが打てればあとはそれより遅いところばかりだから絶対打てる、と。まあ理論的には間違いないんですけど、そこに合わせて緩い球にもろくなる人はいっぱいいる。落合さんの場合はそこに合わせても、例えばアウトローにボールになっていくようなカーブやスライダーでも打てる技術の凄さがある。それは落合さんだからこそ言えることなんじゃないかと思った」

　そしてもう一つが重心の取り方だった。

「足だとか下半身の使い方を習った。とにかく内側、内側だと。絶対外に逃がしちゃだめで、体重移動はすべて内側だけでやれ、と。体重が軸足に乗っているときも、打ちにいくときも全部内側でコントロールしろ。そうすれば力を逃さないし、ぶれないと言っていましたね」

　2人が打撃の話をよくしたのは、試合が終わった東京ドームの風呂場だった。

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　落合は帰り支度をするのが遅く、松井も、いつもノンビリしていた。他の選手がそそくさと汗を流した後に、2人だけで湯船につかっていることが多かった。

「そういう時に、よくバッティングを教わったね。風呂場で教わった（笑）。その日の試合の打席うんぬんではなくて、もっと総論。バッティングとは何たるかというような話をしてくれた」

落合と出会って「バットを変えた」

　松井が落合と出会ったことで、具体的に変わったものとしてバットがあげられる。

　移籍してきた落合のバットを初めて見たときの思いを、松井はこう語っている。

「とても僕に使いこなすのはムリだと思った」

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