このオフにフリーエージェントの資格を得た落合が巨人に移籍。報知新聞の対談で初対面は実現した。

　東京。内幸町の東京會館で行なわれた対談では、いきなり松井が遅刻。予定の時刻を30分以上過ぎて、ようやく落合の待つ部屋に飛び込んできた。

「覚えているのは僕が遅れていって、落合さんが競馬新聞を見ていたことだけ（笑）。ちょうど有馬記念のころだったと思います。あの頃はまだ車の（所有）許可が下りていなかったから、レンタカーを借りていた。それを運転して寮（神奈川県川崎市）から来たんだけど、途中すごく渋滞していて……道も分からなかったし……」

　だが、落合は遅刻を怒るでもなく淡々と対談は進行していった。プロ入り2年目を迎える松井に対して、落合は静かに練習の大事さを説いた。とにかくバットを振りまくれ。落合はこう語って聞かせている。

「オレは練習が嫌いだとは言うけど、練習をしなかったとはひとことも言ってない。とにかくこの世界、バットを振りぬくことだ。練習をしたやつには絶対に勝てないんだ」

1993年オフに、中日から巨人にFA移籍した落合。松井との対談はその年の12月に行われた　©BUNGEISHUNJU

「僕の欠点は何ですか？」に苦笑い

　松井が「僕の欠点は何ですか？」と聞くと、落合が「いっぱいありすぎてなあ……」と苦笑いを浮かべてこんな話をした。

「スイングスピードは確かに速いけど、振っているところが違う。打球はダイヤモンドの90度の中に入れなければならないのに、その外で振っている。90度の外のスイングが速いんだ。あとはボールの見逃し方も気になるな」

　スイングが最速になるポイントの違いをこんな落合語で聞かされて、松井は「何となく言っていることは分かります」とうなずくばかりだった。

「ただ、とにかく振ったやつが最後に勝つんだという、それが一番印象に残っていますね。僕はあのとき19か20歳くらい。向こうは40でしょう……昭和28年生まれって聞いてびっくりしたのは覚えています」

　こうして約20歳の歳の差がある現役選手同士の“師弟関係”は、落合が巨人を去る1996年まで、3年間にわたって続くことになる。

1953年生まれの落合と1974年生まれの松井。約20歳の歳の差がある“師弟関係”だった　©KYODO

「風呂場で教わった（笑）」

　プロ入り2年目のシーズン。巨人は伝説の“10・8決戦”で中日を倒してリーグ優勝。その勢いをかって、日本シリーズでは西武を倒して日本一へと駆け上がった。

　松井はこの年、プロ2年目で全130試合に出場して20本塁打をマーク。“10・8決戦”では落合とともに、試合を決めるアベック本塁打も放っている。

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