対戦しないとわからない「斎藤のすごさ」とは

　この試合、5回途中からリリーフとしてマウンドに上がり、バッターとしても、斎藤と1打席だけ対戦した榎下はこう言った。

「僕は初球の甘い変化球を見逃してしまったんです。オーラに負けてしまったのか、手が出せなくて、ああ、今のを打てばよかったと思っていたら、まっすぐがドーンと……シュルシュルシュルってキレもあるのに、ベース上では重さも感じる。ベンチからの斎藤は小さく見えたんですけど、バッターボックスに立ったら大きく見えました。淡々と投げてくるのに圧倒されるというか、闘志をむき出しにせずに向かってくる。斎藤のすごさは、バッターボックスに立った人にしかわからないと思います」

　最後のバッターは4番の鮫島だった。追い込まれてから、またもフォークを空振り。鮫島はこの日、3つめの三振を喫した。

「何もできない、無抵抗の3三振でした。野球に対する考え方とそれを表現できる能力、プラスそれを結果につなげられる強さ、賢さ、技術の高さ……僕は、あれが斎藤の実力そのものなんだ、と思っています」

　この翌日、斎藤は夏3連覇を目指す駒大苫小牧に立ち向かうことになる。そして引き分け再試合を含む2試合、296球を一人で投げ抜いた。この覚醒があったからこそ辿り着いた、夏の頂きだった――。

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