キャプテン鮫島「初球を見ただけで、こりゃ、速ぇと」

　淡々としながらも、斎藤は内角を容赦なく突く、強気なピッチングを見せた。その一方で、ポケットから青いハンドタオルを取り出して上品に汗を拭っている。鹿児島工の選手たちは、早実のエースのそんなギャップに戸惑っていた。2回表、先頭バッターとして斎藤と対峙したキャプテンの鮫島は、新日鐵住金鹿島のコーチ兼キャッチャーとして今もプレーを続けている。この夏の都市対抗を戦い終えたばかりの鮫島は、当時をこう振り返った。

「斎藤は騒がれてましたけど、でもウチにもバッターボックスで『シャーッ』と叫ぶ、代打男の今吉がいましたからね（笑）。あまり意識せず、フラットに向き合えたと思います。（中迫俊明）監督からは『まっすぐが速いからバットを短く持て』と言われましたけど、僕はそうしませんでした。緩い変化球には自信もありましたし……」

　しかし、斎藤は鮫島の心を見透かしたピッチングを見せる。初回、早実に3点を先行されて「早く1点でも」と気負った最初の打席、鮫島は斎藤が初球に投じたストレートに圧倒されてしまったのだ。

「まっすぐが速かったんです。ボール球でしたけど、アウトローにキレのいいまっすぐがきて……初球を見ただけで、こりゃ、速ぇと思ってしまいました。イメージだと140km台の後半くらいかな」

日本高校選抜のアメリカ遠征で斎藤佑樹とバッテリーを組んだ鮫島哲新　©AP/AFLO

　しかしこの日、斎藤が鮫島に投じた初球のストレートは、テレビのスピードガン表示によると“135km”だった。鮫島にその事実を告げると、彼は目を見開いた。

「へっ、135？　いやぁ、速かったけどなぁ。初球が速くてキレもあったので、それで頭の中がまっすぐ一色になってしまって……何とか喰らいついて、ファウルにするのが精一杯でした。なぜかなぁ。フォームがこぢんまりとしていて、そんなにダイナミックじゃないですよね。ヒザを曲げて、小さく縮こまった感じから、予想もしないキレのいいボールをピシュッと投げてくる。それで速く感じたのかもしれません」

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