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「もう全部終わった」失意の東京五輪落選を救った妻の言葉…“日本のミドル、なめんなよ” ブラン監督も絶賛する202cm高橋健太郎のブロック
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2022/07/13 06:00
202cmのミドルブロッカー高橋健太郎(27歳)。ブラン監督も信頼を寄せる高いブロック力は、五輪メダル獲得のカギを握っている
ネーションズリーグが続く中であるにも関わらず、発表を受けた後からは練習にも一切参加しなかった。五輪後まもなく開催されるアジア選手権に招集されたが、それも断った。
ネーションズリーグの開催地イタリアから帰国し、隔離期間を終えて自宅に戻ってから両親と妻に「もう辞める」と伝えた。「終わった」「負けた」と投げやりになっていた高橋に、妻の言葉が刺さった。
「オリンピックが特別だって言うけど、私にとってはたかが1大会、別にそれが人生のすべてじゃないでしょ。普通の2週間なのに、そこに出るのが叶わなかっただけで、終わった、負けた、って思うわけ? 一生懸命やってきたけど、選ばれなかっただけ。私はそれで健太郎がダメだなんて1つも思わないし、成長しているのにもったいないよ。このまま辞めたら、絶対に後悔して、文句を言う姿が目に浮かぶ。本当にこのまま何も残らなかった、って思うだけでいいの?」
ストレートすぎるほどの正論に、ハッと気づかされた。
「このまま終わったら、本当に負けて終わりだ、と思ったんです。ここで逃げたら、次の人生でも負けるかもしれない。そう考えると怖かった。だから、東レに戻って『2週間休みを下さい』と時間をもらって、一度バレーから離れてゆっくり考えようと思ったんですけど、結局離れられなくて、毎日ウェイト場を借りてトレーニングしていました」
ブロックのスペシャリスト富松の助言
身体を動かせば、気持ちも切り替わる。五輪出場がなくなり、時間ができたことをプラスに捉え、徹底的に身体を作り直そうとトレーニングに励んだ。妻の全面的なバックアップも受け、食生活から見直した。
努力の成果はすぐに表れ、Vリーグ開幕前の10月に計測すると最高到達点は3m61に伸び、トレーナーからも「(3m)70まで行くんじゃないか」と言われたことも自信につながった。
加えて、ずっと模索していたブロックの手ごたえ、求める感覚をつかめたのも同じ時期だ。東レの先輩であり、今年5月の黒鷲旗で現役を引退した元日本代表ミドルブロッカー、ブロックのスペシャリストの富松崇彰からのアドバイスが転機となった。
「『たとえ相手のセッターに振られても、自分がどこまで行けるか。そのギリギリのラインだけ知っておけばいい、そうすれば遅れても両サイド、どっちでも行けるようになるから』って。むしろ今までは、先に行こうと焦って、(手を)出そうとしすぎて空中で流れてしまうせいで、相手にうまく使われていたんです。
でも富松さんに言われてからは、ギリギリまで待って、相手のスパイカーが打つ方向へ身体を向けた瞬間に手を出す。言うならば、手を出すところに“打たせる”んです。手が出ていなければ、相手は“いない”と思って打ってくるから、そこに手を出す。とにかく手を前に出せ、力を入れろ、ではなく、待って、待って、最後にふわっと、それこそピアノを弾くようなイメージで柔らかく手を出して、ボールを止める。ぶつかりに行くのではなくて、打たせたボールを手に入れて、止める。ケンカしちゃダメなんですよ」
ドイツ戦で見せた左手でのワンハンドブロックは、その象徴だ。すべてがつながった、まさに会心の1本だった。