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大学野球PRESSBACK NUMBER
64連敗…“弱かった”東大野球部「ヤバい、このままだと大学4年間で0勝だ」OBが明かす、なぜ法政大の野球エリートから1勝できたか?
text by
沼澤典史Norifumi Numazawa
photograph bySankei Shimbun
posted2022/07/10 11:00
2021年春のリーグ戦で東大は法政大に勝利。苦しみ続けた64連敗をストップすることができたが…なぜこの1勝を挙げることができたのだろうか?
「内野手の間を抜くためには打球速度は何キロ以上が必要で、長打になるには打球角度が何度が望ましい、といった分析が行われ、具体的な数値目標を設定しました。その目標をクリアするために必要な練習やウェイトトレーニングなどを考え、実践していきました」
理詰めの考え方は、いかにも東大らしいが、その変革の旗振り役となったのが、同期の齋藤周(2022年卒・桜修館中教校)。齋藤は、右肩の怪我をきっかけにプレイヤーとしての道を諦め、2年の夏に学生コーチに転身。それと前後して、神宮球場に「トラックマン」が設置され、データを各大学が使用できるようになったことに触発されてデータ分析を始めたという。トラックマンとは、ボールを追跡(トラッキング)することで球速や打球角度、リリースポイントや回転数といった様々なデータが取得できる弾道測定器のことだ。
「当時、東大野球部には僕の他にも多くの学生スタッフがいたので、自分の存在意義を示すためにデータを活用するアナリストを目指すことにしました。解析や分析のために、プログラミングの勉強や関連書籍の読書、また分析用のアプリも独自で開発しました。最近だと東大や他大学でも、そのようなアナリストの専門的なスタッフがいますが、当時そこまで突き詰めていたのは僕くらいだったかもしれません」(齋藤周)
リーグトップ“24盗塁”のウラ側
こうした分析は、練習の方向性やチームとしての戦い方、相手チームの研究などに活用された。もちろん多くのメンバーがひしめく中には、データではなく、感覚に重きを置く選手もいたが、徐々に齋藤の分析の手腕にみなが納得していったという。
「当初は希望する選手に、データを元にしたアドバイスをしていました。ただ、僕が関わった選手が結果を出したり、春にチームが試合に勝ったりするにつれて、秋には全員が共有するようになりました。選手各人のプレーやスタイルがはっきりしてきて、練習でも打球スピード、スイングスピードなど具体的な目標が数値化されたのは、それまでの東大と比較して大きな変化だったと思います」
齋藤をはじめとする当時の東大野球部のアナリスト班ではプロのデータも独自分析し、得点機会を増やす戦略を探っていた。試合でも齋藤の存在は大きく、井手峻監督の右腕として作戦や選手の起用法に関与し、チームの頭脳を担った。
「東大の打力に過剰な期待はせず、積極的に盗塁を仕掛けました。例えば2アウト一塁での得点確率は12%ですが、2アウト二塁なら25%に上がります。このようなデータを提示し、盗塁をしたほうが得だと選手にも説明して盗塁企図数を増やしました。その結果、21年春リーグでは24盗塁(28企図)を達成し、リーグトップの数字を出せました。ただ、思うように打率を伸ばすことができず、得点が増えなかったことが悔やまれますね」
連敗を64でストップ「社会人でも野球を続けたい」
かくして2021年春のリーグ戦で東大は法政大に勝利し、連敗を64(3引き分けをはさむ)でストップ。秋のリーグ戦でも立教大から1勝を挙げた。そして前出の井上は不動の4番として4年生の全試合に出場し、秋には.281(32打数9安打)の高打率をマークした。