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「球団で仕事もらえるかな」クビ前提で話し合う選手たち…「育成のホークス」が抱える“枠が少なすぎて一軍に上がれない”問題
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph bySankei Shimbun
posted2022/07/09 06:00
ともに育成ドラフト出身の千賀滉大と甲斐拓也。三軍制を発足した2011年以降、多くの主力選手を生み出してきたが……
それ以降も昨年までは振るわぬシーズンが続いた。プロ野球の規約によってオフになると毎年自由契約選手として公示されたが、ソフトバンクはその度に再契約を行ってきた。そもそも大砲育成には時間を要する。黒瀬自身だけでなく、球団も“ロマン”を諦めなかったのだ。
今年、そんな才能の芽がようやく膨らみ始めた。7月3日のファーム交流戦・日本ハム戦(鎌ヶ谷)では、その時点でウエスタン2位タイとなる6号本塁打を放った。なにより毎年1割台と不安定だった打率が、この日まで.302と健闘しているのが確かな成長である。
一軍のコロナ非常事態において、懸念されたのは投手陣だけではない。むしろ「右打者不足」の方が深刻だ。打線の中軸を担うデスパイネとグラシアル、さらにチーム2位タイの6本塁打を放っている野村勇が陽性判定を受けてチームを離れている。
藤本博史監督は番記者に向けた取材の中で「右打者がほぼいない。右打者で大きいのを打てるのがほしい」と窮状を訴え、ファームの中からリチャード、中谷将大、増田珠、そして黒瀬の4人の中から1人を一軍に呼ぶ意向を示した。
「育成」と「支配下」のシステム
指揮官がずっと期待を寄せるのはリチャードだが、ウエスタンで本塁打ランキング1位に立っていても打率が1割台のブービー賞では「状態が悪いんで悩みます」と言うしかなかった。4人の中で最も高評価だったのは黒瀬だった。藤本監督も「状態がいい」と認めた。一方で、こんな言葉を継いだ。
「黒瀬の場合は育成なので、厳しいかも」
プロ野球の基礎知識ではあるが、一軍でプレーできるのは支配下登録選手のみ。育成選手の出場機会はファーム戦に限られ、イースタン・ウエスタン両リーグでも1試合最大5人までという厳しい規定もある。また、シーズン中に育成選手から支配下登録となれば、そのシーズンは支配下選手としてプレーすることが出来る。その一方で、逆にシーズン中に支配下契約を解除して育成契約へ切り替えることは禁止されている。