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「子供が好きすぎて子離れできない」W杯ベルギー戦“つま先ゴール”から20年、鈴木隆行46歳は今…ぶっきらぼうなFWは2児のパパになっていた
text by
高川武将Takeyuki Takagawa
photograph byKisei Kobayashi
posted2022/07/02 17:04
都内のサッカーバーで深夜23時から取材に応じた鈴木隆行
若い頃の鈴木は、とにかくトンガっていた。2002年の夏、ベルギーはヘンクで初めて取材したときのことは、今でもはっきり覚えている。練習後のスタンドで行ったインタビュー。のっけから「あなたの生き方を聞きたい」と言う私に、「そういうことを語るつもりはないです。簡単な取材にしてもらえますか」と彼はぶっきらぼうに宣った。金髪に細い眉、鋭い眼光は私ではなく遠くを見ている。今思えば、当時36歳の私が26歳の若者に生き方を聞くというのもどうかと思うが、彼は明らかに面倒くさそうで、ふて腐れた感じだった。
だが、私は面白いと思った。私自身も他人からよくトンガっていると言われていたし、そういう人をむしろ好き好んで書いてきたところがある。何よりもそれまでの彼の生き方が他のサッカー選手とは一線を画していて興味深く、初対面の鈴木はとても「いい顔」をしていたからだ。
実際、インタビューを始めると、1時間に渡って、彼は語らないはずの生き方を語ったものだった。自らを逆境に置き、困難を乗り越えることで強くなる――人間的な成長を求める生き方を。
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2度目の取材は同年12月、やはりヘンクだった。このとき、出迎えてくれた鈴木の表情は柔らかく、帰りはホテルまで車で送ってくれた。まだ出場時間は限られ、不慣れな右サイドでの出場が多かったが、生活も含め充実した日々を送っていた。その後鹿島にいるときに2回、最後は06年10月のベオグラードでインタビューしたのだ。
昔の記事を見た本人の反応は…
私はテーブルの上に、その06年の記事のカラーコピーを取り出した。タイトルは「男の器。」(Number666号)。移籍したレッドスター(ツルヴェナ・ズヴェスタ)の新監督から戦力外とされ、半年間も試合に出られない苦境に立たされていたが、自らの生き様を貫き、「もっといろいろな経験をして、人間的な器を大きくしたい」という彼の言葉からつけたものだ。見開きの扉の写真は、ベオグラードの裏通りの、スプレーで落書きされた壁の前でポーズを決めているポートレート。黒い長髪に髭、ライダースジャケットに身を固めた30歳の鈴木は、まるでストリート系のモデルのようだ。それを見て、本人は破顔一笑する。