Number ExBACK NUMBER
「子供が好きすぎて子離れできない」W杯ベルギー戦“つま先ゴール”から20年、鈴木隆行46歳は今…ぶっきらぼうなFWは2児のパパになっていた
posted2022/07/02 17:04
text by
高川武将Takeyuki Takagawa
photograph by
Kisei Kobayashi
日本代表にワールドカップで初めてとなる「勝ち点1」をもたらした主役はFW鈴木隆行だった。ベルギーとの初戦のヒーローは、厳しい環境に身を置き自らを磨き上げたのち、2015年に現役を引退。ルポライターの高川武将氏が、鈴木の激動の20年とその現在地を取材した。
都内某所にあるサッカーバーは、平日の深夜だというのに、大勢の客で賑わっていた。私は一番隅っこのテーブルで、ベルギービールをちびりとやりながら、鈴木隆行が来るのを待っていた。コロナ禍が落ち着いたからこその平和な賑わいを眺めながら、私は16年前の秋の夜を思い出していた。セルビアはベオグラードのレストランバーで、やはり一杯呑みながら、逆境にいる彼の心境をじっくり聞いたのだ。それ以来、16年ぶりとなるインタビューも、呑みながらということになったのにはわけがある。
インタビューは23時スタート
約束の23時きっかりに店内に入ってきた鈴木は、クラフトビールを注文すると、両手を合わせて「お待たせして、本当に申し訳ないです」と殊勝に詫びた。実はこの日、鈴木が運営、指導するサッカースクールの取材をしていた。練習が終わったのは20時過ぎ。当初はその後にインタビューする段取りだったが、彼は一旦自宅に帰ることを希望した。46歳になった鈴木は、中学1年の長女、小学4年の長男の二児の父親でもある。家族との時間を過ごしてから、サッカーバーで腰を据えて話をすることを提案してくれたのだ。
引退直後の2016年から、町のクラブで子供たちの指導を行っていた鈴木は、昨春、本格的に自分のサッカースクール「UNBRANDED WOLVES」を立ち上げた。子供の指導を続ける一番の理由は本誌に記述した通りだが、もう一つの理由が「家族」にあった。
ADVERTISEMENT
「家族との時間を大切にしたかったんです。例えばJリーグの下部組織に入ったら、当然ですけど自由が利かなくなる。若い頃はサッカーが一番でしたけど、今は自分のことより家族が優先。結婚してから12年間、休みの日に家族を置いて遊びに行ったことは一度もないんですよ」
「簡単な取材にしてもらえますか」
現役時代はあった険のとれた柔和な表情を、私は意外な気持ちで眺めていた。