王貞治は1973年に初めて三冠王になる前に、1968年から70年まで3年連続で首位打者になっている。王は1962年に一本足打法になって開眼して以来「リーグ最強打者」として君臨しており、投手は勝負を避けたがった。四球数は1962年から79年まで18年連続でリーグ最多。つまりその分、打数が少なくなって「1本当たりの安打の価値」が上がったのだ。

王貞治の鮮やかな弾道　©BUNGEISHUNJU

　落合博満は、最初のタイトルが1981年の首位打者だった。“長打もあるシュアなアベレージヒッター”という印象でトッププレーヤーの仲間入りを果たした翌年、三冠王になった。もともと安打を打つ能力に長けていて、そこに長打が加わったという印象だった。

　落合と対照的なのは、1965年に三冠王となった野村克也である。

　野村は1964年までに本塁打王を5回、打点王を3回獲得していた。ただし同期間に打率が3割を超えたのは2回だけ。不動の正捕手でもあったが足は速いとは言えず、足で安打を稼ぐタイプの打者ではなかった。しかし1965年、野村は打率.320でキャリア唯一の首位打者を獲得し、前年まで3年連続で続けていた「本塁打、打点の二冠王」も継続させて戦後初の三冠王になった。数少ないチャンスをものにしたという印象だ。

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野村は二冠王になったのに年俸を下げられたことも

　今では信じられないが――野村は前年に本塁打、打点のタイトルを取ったにもかかわらず「数字が下がった」ことを理由に年俸を下げられたという。このことも野村にとって「なにくそ」と奮起する要素になったそうだ。

　村上宗隆は2020年に打率.307を記録しているが、通算打率は.275。今後この数字は上がっていくと推測されるものの、野村克也が.277であることを考えても、アベレージヒッタータイプではないと言えるだろう。

　前述した通り、打率はDeNAの佐野恵太に次ぐ2位につけている。とはいえ首位打者獲得経験のある佐野に競り勝つのは、かなり難しい課題ではありそうだ。

三冠王の前に立ちはだかる「ライバル」の存在

　もう一つは「ライバル」の存在だ。

　王貞治が一本足打法になって「無敵のスラッガー」といわれ出した1962年から11シーズンも三冠王を獲得できなかったのは、チームメイトの長嶋茂雄がいたから。1962年から王が三冠王を取る前年の1972年までに長嶋は打点王を4回、首位打者を3回獲得している。

　特に1968年から70年の3シーズンは、王貞治が珍しい「本塁打王と首位打者の二冠王」を3年連続で獲得する中、長嶋茂雄は3年連続で打点王になり、王の三冠王を阻止した。

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