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「名門の選手であることの意味を思い出せ」ミランがついに再興! 11年ぶりのスクデット獲得、王様イブラヒモビッチの伝説スピーチと「25人の息子たち」
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2022/06/08 06:00
名門の再興を誓い3年前に復帰したイブラヒモビッチ。宣言通りにミランを高みへと導いた
サッスオーロは今季で引退するベテラン主将マニャネッリを後半から投入し、終盤には若い第3GKを出場させた。指揮官ディオニージの恩情起用で、もうホームチームに試合をひっくり返す気がないことは明らかだった。
それでもミランは手綱を緩めなかった。終わってみれば、今季17試合目の完封勝利。リーグ最少失点でミランは王者に返り咲いた。
最も“結束力”に秀でたチームだった
開幕時点での戦力やネームバリュー、年俸総額でいえば王者インテルやユベントスに及ばず、冬の移籍市場でもほとんど補強はなかった。
しかし、ミランはシーズンを通して一人ひとりが力をつけ、チーム全体が相乗効果的に成長した。イブラヒモビッチやDFキアルのように頼れるベテランたちが故障で戦線離脱しても、残った選手たちは指揮官ピオリの対応力と工夫を信じてプレーし続けた。彼らが最も“結束力”に秀でたチームだったことは間違いない。
悲願達成を目前にした高揚と緊張に、ミランの若者たちは浮つくことなく堂々と立ち向かい、打ち勝った。これは競い合った19チーム全てが認めるところだろう。
「我々こそが優勝に値するチームだった。どこよりもスクデットを勝ち取りたいと願い、獲れると信じたのは我々だった。私はうちの選手たちに恋してるんだ」
指導者として初めてのタイトルを勝ち取ったピオリは、子供のようにはしゃぎ、選手たちの輪に混じって両腕を振り回して歌い踊った。
マペイ・スタジアムの祝祭に、ミラニスタたちで賑わう路上に、チームのシンボルとなった指揮官を称えるダンスナンバーの替え歌が響く。
Pioli is on fire!
Na-na-na-na-na, na-na-na,na-na-na...
ミランを取り巻く環境は激変しつつある
スタジアムへの行き帰り、道すがら初夏のジャスミンの香りが強く匂った。今やイタリアでサッカー観戦での歌声を咎める者はなく、自然の香りを楽しむことを訝しむ人間もいない。根源的な喜びとして声を出すことすら憚られた年月を経て、今季のスクデットにはポスト・コロナウイルスの意味合いも込められていたような気がする。
ミランの新オーナーになる予定の「レッドバード」代表ジェリー・カルディナーレは、2日にTDマルディーニと面談し、チーム強化の方向性を確認したという。すでにミラノ北東部の新スタジアム建設計画用地も視察済みで、ミランを取り巻く環境は激変しつつある。パトロンが変わり、世界も変わった。だが、ミランは王座に帰ってきた。
名門は、一度落ちても必ず這い上がるから名門なのだ。