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「名門の選手であることの意味を思い出せ」ミランがついに再興! 11年ぶりのスクデット獲得、王様イブラヒモビッチの伝説スピーチと「25人の息子たち」
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2022/06/08 06:00
名門の再興を誓い3年前に復帰したイブラヒモビッチ。宣言通りにミランを高みへと導いた
ちょうどMF本田圭佑が入団した14年初頭には、収容人数7万5000人のサン・シーロに1万人も入らない試合もあり、ガラガラ状態のスタンドを記者席から見るたびに胸が痛んだ。
帝王ベルルスコーニが怪しげな中国人実業家、李勇鴻にミランを売却したのが2017年4月13日のことだ。その夏には200億円超の大補強をしたものの、すべてが付け焼き刃で構築された“チャイニーズ・ミラン”には理念も資金的な土台も乏しく、シーズン終了後にあっさり破綻した。
ピオリだけは悲観していなかった
2018年7月10日、李の融資元だった投資ファンド会社「エリオット」が、クラブの経営権を掌握し、ミランは米国資本の下で再出発することに。長く待ち望まれていた元主将パオロ・マルディーニのフロント入りは実現したが、結果がすぐに出るはずもない。
2019年夏に招聘された指揮官ジャンパオロ(現サンプドリア)がチーム改造に失敗し、わずか3カ月で解任されるとミラニスタたちには深い落胆が広がった。
後任として招かれたのは、タイトル獲得歴を持たない中堅監督ピオリだった。彼の就任から間もない12月の年内最終戦で、低迷はドン底に達した。
リーグの新強豪へ急成長したアタランタに、ミランは0-5の屈辱的大敗を喫した。相手の超攻撃派サッカーに手も足も出ず、主将ロマニョーリや守護神ドンナルンマらが悔し涙を流した。ほんの10年前まで欧州のトップクラブだったはずのミランは、セリエAで二桁順位を彷徨っていた。
だが、指揮官ピオリだけは、悲観していなかった。
「私のミランが生まれたのは、あのアタランタ戦だ。大敗したのは事実だが、私はポジティブに捉えたよ。チームのどこを改善すべきか、後にやるべき仕事が明確になったからね」
ミラン再興こそが最後の大仕事
もう1人、ミラン復活に火をつけたのは、当時米国MLSでくすぶっていたイブラヒモビッチだった。不惑近いベテランになっていた怪物FWは、古巣の惨状を知るや2012年夏以来の帰還を決断。
“俺様に残された最後の大仕事はミラン再興だ!”
ミラネッロ練習場に帰ってきたイブラはボロボロの肉体にムチ打ちながら、ひと周り以上も年の違う若手選手たちに、勝者とは何か、ロッソネロの魂とは何かを日々叩き込んだ。全能の師であり、頼れる父長であるイブラは、この2年、誇らしげにくり返している。
「俺にはミラネッロに“25人の息子たち”がいるんだ」
11年分の鬱憤を晴らしたのは、イブラの息子たちだ。
今シーズンのセリエA年間MVPに輝いた快速FWラファエウ・レオンと、左サイドで攻守に疾駆したDFテオ・ヘルナンデス。中盤で獅子奮迅の働きを見せたMFトナーリ。イタリア代表正GKドンナルンマの抜けた穴を埋めた新守護神メニャンに、DFカルルとDFトモリの新進CBコンビは鉄壁の守備を築き上げた。