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「名門の選手であることの意味を思い出せ」ミランがついに再興! 11年ぶりのスクデット獲得、王様イブラヒモビッチの伝説スピーチと「25人の息子たち」
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2022/06/08 06:00
名門の再興を誓い3年前に復帰したイブラヒモビッチ。宣言通りにミランを高みへと導いた
2000年以降の最年少スクデットチーム
25歳344日というスカッドの平均年齢は、5大リーグの今季優勝クラブ中最も若い。イタリア国内に絞ってみても、2000年以降の最年少スクデットチームだ。
2010-11シーズンの優勝がアッレグリ監督に率いられたチーム平均年齢29歳241日の“オヤジ・ミラン”だったことを思い出すと、隔世の感がある。
TD(テクニカル・ディレクター)マルディーニとSD(スポーツ・ディレクター)マッサーラが適正価格で発掘してきた才能をピオリは適材適所で使いこなした。
シーズン前半戦の首位を競り合ったナポリが脱落し、スクデットレースの終盤は昨季王者インテルとのマッチレースとなった。
週末ごとに攻撃力と総年俸で上回るインテルと、試合開催の時間差で抜きつ抜かれつがくり返された。追われるミランのプレッシャーは増し、4月上旬にボローニャとトリノ相手に2戦連続無得点ドロー。昨季同様、ラストスパートで失速するかに思われたが、彼らは踏ん張った。
名門の選手であることの意味を思い出せ!
「おまえら、今年も2番でいいのか?」
古い山寺の和尚みたいに、人の心をくすぐる術に長けた智将ピオリは、練習場のあちこちに煽り文句を貼り付けて選手たちを焚きつけた。
第34節ラツィオ戦の92分にトナーリが決めたロスタイム決勝弾は、タイトル争いに大きな影響を与えた一撃として記憶されるだろう。ラツィオ戦の劇的勝利は、“最後まであきらめない”という確固たる自信をミランに植え付けた。
逆に心理的に追い詰められたインテルは、3日後に行われたボローニャ戦でよもやの勝点ゼロに終わり、追撃に急ブレーキ。4戦を残し、自力優勝が可能になったミランに、満身創痍のイブラヒモビッチは檄を飛ばした。
「名門の選手であることの意味を思い出せ。ミランの歴史に名を残せるのは、タイトルを勝ち獲った人間だけだ!」
それが勝負の世界の掟だと、老兵は独り立ちしようとする若獅子たちへあえて厳しい言葉をかけたのだ。
92万円の最高値がついたゴール裏席が即売約
そして5月22日、最終節の舞台となったサッスオーロのホームスタジアム「マペイ」には、11年ぶりの優勝の瞬間を見届けようと多数のミラニスタが殺到した。プラチナペーパーと化した試合チケットは転売され、92万円の最高値がついたゴール裏席も即売約される異常なフィーバーぶり。
牧草地帯の緑に囲まれた長閑なスタジアムは赤と黒に染まった。サイズが凝縮した分、本家サン・シーロよりダイレクトに届く大声援を受けて、ミランは前半だけで3点のリードを奪った。
長くミランを悩ませてきた“背番号9の呪い”を、今季ようやく解いた助っ人FWジルーが先制点と追加点を決め、MFケシエが3点目を挙げても、ミランの面々は緊張の色を消さなかった。