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「名門の選手であることの意味を思い出せ」ミランがついに再興! 11年ぶりのスクデット獲得、王様イブラヒモビッチの伝説スピーチと「25人の息子たち」
posted2022/06/08 06:00
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
Getty Images
ミランがついに再興した。
長い低迷から這い上がり、勝ち取った19回目のスクデット。11年ぶりのセリエA制覇によって、名門復活の大河ドラマは大団円を迎えた。
優勝が決まった後のロッカールームや20万人が押し寄せた凱旋パレードで、チームの大黒柱イブラヒモビッチがくり返したスピーチには、仲間への感謝と王者の矜持が込められている。
「(2年前)ここに戻ってきた日、俺は会見で『ミランをかつての高みに引き上げる、優勝させる』と言った。多くの人間に笑われたが、俺たちは耐え忍び、日々の練習に励んだ。信じ続けて、真の結束を得た。皆に礼を言いたい。全員で勝ち取ったスクデットだ。ミランはミラノ(だけのクラブ)じゃない。ミランはイタリアを征服したぞ!」
同じ町のライバルである前年王者インテルとの熾烈なスクデットレースを制しての戴冠だけに、ミラニスタたちが味わう美酒の味は格別だろう。
優勝の余韻冷めやらぬ6月1日には、米国投資ファンド「レッドバード・キャピタル・パートナーズ」によるクラブ経営権買収が合意に至ったと正式発表された。
スクデットを足がかりに、ミランは新たな時代へ突き進む。
欧州カップ戦出場権すら逃し続けた
10年前、スクデット連覇を逃したミランは攻守の柱だったFWイブラヒモビッチとDFチアゴ・シウバを揃ってパリSGに売却した。同時に2000年代のクラブ黄金時代を担った名手たちもほとんどが退団するかスパイクを脱ぎ、ミランの暗黒期はここから始まった。
英国の金融パワーや産油国の王族が乗り込んできた欧州サッカー界では、トップレベルの戦力を維持するための移籍金や年俸が急騰した。2000年代に2度CLを制し、欧州の頂点に君臨したロッソネロ(赤黒)軍団は、老いの進んだ帝王ベルルスコーニが私財投入を控え始めると、ライバル台頭の波にのまれ、ズルズルと競争力を失っていった。
勝者のサイクルを築いたユベントスが国内で連覇を重ね、ナポリが魅力的なサッカーを構築していく一方、組織が硬直化していたミランには、パトロン以外の新たな資金源発掘の手立てもビジョンもなかった。市場毎に小手先の補強に甘んじ、現場のチームは年々スケールダウン。タイトル争いどころか欧州カップ戦出場権すら逃し続けた。
サン・シーロに1万人も入らない試合も
愛する古巣の窮地を救うべく、OBたちが次々に監督として馳せ参じた。胸を熱くしたミラニスタは少なくないだろう。
ただし、現役引退から間もなかった当時のセードルフやインザーギ、ガットゥーゾの指導経験不足は否めず、ミラン再建を彼らに託すのは酷だった。レジェンドOBたる彼らが期待を背負って就任しては成績不振の詰め腹を切らされる悲劇を、ミラニスタたちは涙を呑んで耐え忍んだ。
再建を焦るミランは、ミハイロビッチやモンテッラといった外様監督にも頼ったが、彼らはクラブとチーム、ファンの3者を一体にすることはできなかった。