- #1
- #2
Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
ジダンのCL決勝ボレーが「銀河系軍団・終わりの始まり」となった真相「当初は何の問題もなかった。だが歯車が…」〈当時のレアル広報部長が告白〉
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/05/28 06:01
CLを制した翌シーズン(02-03)のレアル・マドリー。豪華な面々は同じでも、内情は少しずつ変わっていたようだ
マドリーは本当の意味で銀河系になったんだ
ホルヘ・バルダーノは、当時クラブのスポーツ・ディレクターを務めていた。ハリウッドの悪役みたいな顔をしているけれど、あの頃のマドリーについて話すとき、自然と頬は緩む。ジダンを連れてきたことは、今も誇りだという。
「あの夏の日、私はマドリードにあるチャーター機専用の小さな空港にジダンを迎えに行った。これから、どんなチームになっていくのか。胸は高鳴っていた。もちろんペレス会長もだ。我々は誓ったよ。魅力的で、攻撃的で、タイトルに溢れ、そしてマーケティング面でも世界のサッカー界の頂点に立つクラブにしようと。すでにチームにはフィーゴにラウール、ロベルト・カルロスら、軸となる選手はいた。しかしジダンが入ったことで、マドリーは本当の意味で銀河系になったんだ」
そのシーズンにチャンピオンズリーグで優勝できるとは、バルダーノも考えていなかった。新獲得のジダンがボレーを決めたことは、自らと、ペレス会長の決断が正しかったことを世間に証明してくれたという。
「私はペレス会長と一緒に貴賓席から見ていた。ボレーが決まったときの、会長の興奮を覚えている。決めるべき選手が、決めるべき形で決めた。すべての面で、完全に成功したんだ。そして我々はさらに補強をすることにした。その数力月後には、ロナウドを獲得してね」
あの頃のチームには現在のマドリーとは比較できないくらいのインパクトがあった、と彼は言う。
「今よりもずっと派手だったよ。ジダン、ロナウド、フィーゴ、ラウールという4大スターがいたわけで。今のマドリーでそのレベルにあるのは、クリスティアーノ・ロナウドだけ。ただ、現在のチームとは違い、あの黄金時代が長続きしなかったのは確かだ。主力は年を重ね、カンテラからの押し上げも少なかった。ただ、後悔はしていない。私たちはひとつの時代を築くことができたのだから」
当時の広報部長が見た「銀河系」終焉の始まりとは
ジダンのボレーが決まり、ロナウド加入に世間が騒いだ頃、地平線の彼方に、淡い終わりの気配も見え始めていた。
ホアキン・マロートは当時をクラブの広報部長だった。
メディア担当部署は今とは違いまだ小さく、たった4人で記者会見から選手回り、取材申請などを処理していた。銀河系となったことで、世界中からインタビューの依頼が届いていた。まだFAXが主流だった時代だ。ある朝来てみると、辺りが紙で埋まっていたこともある。
「世間の反応は尋常じゃなかった。あのメンツが世界に与えた影響は大きかったんだ。ジダンが入ったシーズンなんか、1年間、毎日インタビューをさせても終わらない数の取材申請が世界中のメディアから来た」
イタリア話を話せたことで、当初はジダンとよく一緒にいた。ロッカールームの中を見て、彼が気がついたことがある。たくさんのスター選手が入ったことで、チーム内に幾つかのグループができていたのだ。