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「あのボレーはジダン自身を救ったんだ」「とにかくシャイで…」銀河系マドリー指揮官と同僚が語る“CL史上最高ゴールと天才MFの素顔”
posted2022/05/28 06:00
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph by
Daisuke Nakashima
サンティアゴ・ベルナベウから北西へ10分ばかり進んだインファンタ・メルセデス通りの角に、一軒のバスク料理店がある。
『アサドール・ドノスティアッラ』。
緑に覆われた重い扉を開けると、肉を焼く匂いが漂ってくる。店の名物は、バスク地方で食べられる高級部位、チュレトンだ。焼けた石皿の上に載せられた赤い塊が、元気よく音を立てていた。
店内の白い壁には、古い写真がたくさん飾られてある。
フィーゴには色気が漂っている。ロベルト・カルロスが、店主と抱き合う写真がある。照れたような表情のジダン。ロナウドにラウールもいる。目につくのは、ガラクティコ(銀河系)と呼ばれた、スター選手で彩られたレアル・マドリーの面々だ。
クリスマスも、ジダンが家族でいらっしゃって
一度でもあの白いユニフォームに袖を通し、ベルナベウのピッチを踏んだ選手であれば、ここのチュレトンを必ず食べることになる。レアル・マドリー御用達の店だ。
「先代が作った店なんです。昔からマドリーの選手に贔屓にしてもらって」
現オーナーのペドロが言う。
「クリスマスも、ジダンが家族でいらっしゃって。ちょうどクラブワールドカップで優勝した後で、年明けにも来ていただきました。あれだけの人なのに、いつも謙虚で。監督としても、きっと歴史に残ります」
白い壁をぎっしりと埋める写真の中に、15年前に撮られた、1枚の写真があった。
ジダンが体を傾け、今まさにボールをインパクトしようとしている。目は、ボールをしっかりと捉えている。この数秒後、ハンプデン・パークは歓喜に包まれた。それからは歴史だ。