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ジダンのCL決勝ボレーが「銀河系軍団・終わりの始まり」となった真相「当初は何の問題もなかった。だが歯車が…」〈当時のレアル広報部長が告白〉

posted2022/05/28 06:01

 
ジダンのCL決勝ボレーが「銀河系軍団・終わりの始まり」となった真相「当初は何の問題もなかった。だが歯車が…」〈当時のレアル広報部長が告白〉<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

CLを制した翌シーズン(02-03)のレアル・マドリー。豪華な面々は同じでも、内情は少しずつ変わっていたようだ

text by

豊福晋

豊福晋Shin Toyofuku

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photograph by

Takuya Sugiyama

CL史上最高のシュート。2002年のジダンの「あのボレー」は、何故これほど深く我々の記憶に刻み込まれているのだろう。伝説の瞬間を目撃した人々を採して、マドリードを訪ねた。01-02シーズンのCLファイナルで生まれたスーパーゴールの記憶について追った記事を無料公開します<初出:Sports Graphic Number 921号(2017年2月9日発売)、肩書などはすべて当時。全2回/#1も>

 エルゲラがジダンと抱き合ったハンプデン・パークのロッカールームからそう遠くない記者席の机で、ウリセス・サンチェス・フロールは原稿の締め切りに追われていた。興奮は冷めていなかった。

「ジダンが、僕の方に走ってきたんだ、待ってくれ、今見せるから」

 2017年のウリセスはそう言って、パソコンの画面を見せる。15年経っても、その興奮は全く消えていない。彼は現在『プント・ペロータ』という人気サッカー番組の司会をしている。

「よく見てくれ」と彼は再生ボタンを押す。

 ソラーリの縦パス。ロベルト・カルロスのクロス。ジダンのボレー。そして彼は走り始める。ウリセスはまくし立てた。

「ここだ、ここ。ほら、ジダンが走ってるだろう? その先に僕がいる。見えるかな?」

 曰く、ジダンはこのゴールを決めた後、スタンドに走って行った。その先に自分がいたというのだ。確かに、ジダンは記者席の方に走っている。

「19年間、マドリーを追ってきた。でも、ゴールを決めた後に自分のところに来た、そんなのはあれが最初で最後だ。よりによって、あんな素敵なゴールで」

レアル担当として、この経験を上回るものはないだろう?

 彼はジダンのゴールの素晴らしさを書いた。興奮に満ちた、納得のできる記事だったという。しかしそれ以来、彼はハンプデンの試合を上回る感動を覚えていない。数年前には、長く勤めた『マルカ』紙を辞した。

「もう全てを見た。やり残したことはない。レアル担当として、この経験を上回るものはないだろう?」

 最高の時代とジダンの芸術を目にし、ある意味で燃え尽きた彼は、スタジアムには行かず、今はオフィスでデジタルメディアを作る日々だ。レアルをスペインだけでなく、世界に伝えようと考えている。

 もう一度、彼はユーチューブを探し、別角度で例の場面を再生した。

「本当に、僕の方に走ってきたんだ」

【次ページ】 マドリーは本当の意味で銀河系になったんだ

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