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ジダンのCL決勝ボレーが「銀河系軍団・終わりの始まり」となった真相「当初は何の問題もなかった。だが歯車が…」〈当時のレアル広報部長が告白〉
posted2022/05/28 06:01
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph by
Takuya Sugiyama
エルゲラがジダンと抱き合ったハンプデン・パークのロッカールームからそう遠くない記者席の机で、ウリセス・サンチェス・フロールは原稿の締め切りに追われていた。興奮は冷めていなかった。
「ジダンが、僕の方に走ってきたんだ、待ってくれ、今見せるから」
2017年のウリセスはそう言って、パソコンの画面を見せる。15年経っても、その興奮は全く消えていない。彼は現在『プント・ペロータ』という人気サッカー番組の司会をしている。
「よく見てくれ」と彼は再生ボタンを押す。
ソラーリの縦パス。ロベルト・カルロスのクロス。ジダンのボレー。そして彼は走り始める。ウリセスはまくし立てた。
「ここだ、ここ。ほら、ジダンが走ってるだろう? その先に僕がいる。見えるかな?」
曰く、ジダンはこのゴールを決めた後、スタンドに走って行った。その先に自分がいたというのだ。確かに、ジダンは記者席の方に走っている。
「19年間、マドリーを追ってきた。でも、ゴールを決めた後に自分のところに来た、そんなのはあれが最初で最後だ。よりによって、あんな素敵なゴールで」
レアル担当として、この経験を上回るものはないだろう?
彼はジダンのゴールの素晴らしさを書いた。興奮に満ちた、納得のできる記事だったという。しかしそれ以来、彼はハンプデンの試合を上回る感動を覚えていない。数年前には、長く勤めた『マルカ』紙を辞した。
「もう全てを見た。やり残したことはない。レアル担当として、この経験を上回るものはないだろう?」
最高の時代とジダンの芸術を目にし、ある意味で燃え尽きた彼は、スタジアムには行かず、今はオフィスでデジタルメディアを作る日々だ。レアルをスペインだけでなく、世界に伝えようと考えている。
もう一度、彼はユーチューブを探し、別角度で例の場面を再生した。
「本当に、僕の方に走ってきたんだ」