ワインとシエスタとフットボールとBACK NUMBER
《献身と感謝》「戻りたかったけどイヴァンに日本は遠すぎました…」オシムを58年間支え続けたアシマ夫人から、日本へのメッセージ
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byaflo
posted2022/05/14 17:03
2014年9月、UEFA U-21欧州選手権予選のオーストリア対ボスニア・ヘルツェゴビナ戦会場に現れたオシム夫妻
――その通りだと思います。
「彼の語った言葉が集められて、彼はこうだったとスタジアムでもどこでも語られています。試合の際にはそれが横断幕となって掲げられます。彼が何を考えどう語ったか。言葉はテレビやインターネットを通してさらに広がっていきました。彼の言葉にはそれだけの深さと重さがあったからでしょう。日本と同様にここオーストリアやボスニアでも、イヴァンはまるで哲学者のように見なされていましたから。
そろそろ話を終わりにして、また電話をしてサラエボで会いましょう。パスポートなしでもあなたが来られることを祈っています(笑)。気の毒ですが、パスポートを紛失したとあってはいろいろ大変でしょう。どこで失くしたのかわかっているのですか。誰かに盗まれたのでしょうか?」
――パリから空港に向かう電車の中だと思います。たぶん掏られました。しかし明後日には新しいパスポートが発給されます。
「そんなに早くもらえるのですか?」
――日本大使館が迅速に対応してくれました。サラエボでのイヴァンの告別式に出席しなければならないと事情を説明したら、彼らも配慮してくれました。
愛し、愛されたオシムと日本
「素晴らしい。先ほども言ったように、それが日本人の気遣いだと思います。本来ならばそこまでスムーズにはいかないのでしょうが、イヴァンのためということならばそれに応じた対応をしてくれる。彼がどうであったかを、誰もがよくわかっている。どこでもそれは同じだと思います」
――誰からも愛されていました。
「そうでしょうね。そろそろ本当に電話を切らないと。人がやってきますし、ドクターの報告も受けなければならないですから。昨日、最初の報告があって今日は2度目です。明日が3度目でその後に私たちもサラエボに戻り告別式を執り行います。戻るのは明日か明後日になるでしょう。いずれにせよ直前です」
――私も電話します。サラエボに発つ前か葬儀の前日に。
「向こうで会いましょう。良い旅を」
――それまであなたもお元気で。
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