炎の一筆入魂BACK NUMBER
「負のオーラ満載の僕が連絡するのは…」今季まさかの一軍出場ゼロ、カープ林晃汰が鈴木誠也に電話をかけられない理由
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PHOTO
posted2022/05/09 11:02
開幕前のキャンプでバットを振り込む林。このころから徐々に歯車が噛み合わなくなっていた
「落ちたときは何から手をつけていいのか分からなかった。やることなすことうまくいかなかった。でも、ここからは上がっていくしかないと切り替えるしかない。納得いくまでやるしかないと」
ウエスタンリーグ開幕後も18打席安打が出なかった。今までの野球人生でも経験がないほど、打撃を見失っていた。一軍で打席を重ねた昨季、そばにいた先輩はもう、日本にいない。
カブスの中心選手としてプレーする鈴木とは、昨季途中から本拠地の試合前練習では同じ組で打撃練習をしてきた。先輩と同じように動画を撮影し、技術的な話も聞いた。技術面だけでなく、思考法や準備力など多くのことを吸収してきた。
「誠也さんと打撃できたことが、昨年の大きな財産になっています。僕が見た中では、誠也さん自体がずっと変化している人でした。固定がない、というか。でも何か芯がある」
自ら壁を乗り越えるまで
出場機会を減らしたオープン戦期間中には、励ましのメッセージを受けた。一軍に上がれず、二軍でも結果を残せていない今、どんな言葉をかけてくれるのか、気にはなる。叱られるのか、笑ってくれるのか——。確かめたくて、携帯電話を手にすることもあったが、止めた。
「負のオーラ満載の僕が連絡するのはおこがましい」
その笑顔はぎこちない。一軍で結果を残すまで連絡はしない。目の前の壁は自分で乗り越えてみせる。
4月21日ウエスタンリーグ阪神戦では、今季60打席目にして初めて左翼席にアーチを描いた。同27日ソフトバンク戦の4回には大竹耕太郎の直球に詰まりながらも、右前に転がした。「ボテボテのライト前ヒット」に、長く続いたトンネルを抜ける光が見えた。
「今までファーストゴロ、セカンドゴロになっていた。自分のスイングができたから、打ち損じであっても抜けてくれたのかなと」
開幕してしばらく0割台に低迷していた打率は1割台後半にまで取り戻した。
「昨年やってきたことは間違いではないと感じている。大きく変える必要はない。そこからもっともっと上を目指していけばと思う」
ともに過ごした中で得たものを消化しながら、見失っていた自分を取り戻しつつある。
長いシーズンいつチャンスが訪れるか分からない。あの背中がそうだったように、バットを振って、振っていくしかない。この壁を乗り越えたとき、胸を張って携帯電話を鳴らすことができるだろう。
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