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「負のオーラ満載の僕が連絡するのは…」今季まさかの一軍出場ゼロ、カープ林晃汰が鈴木誠也に電話をかけられない理由
posted2022/05/09 11:02
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
JIJI PHOTO
時差を気にしながら手に取った携帯電話を何度、テーブルの上に戻したことだろう。22年シーズンが始まってから、林晃汰はまだ一度もあの先輩に連絡できていない。
混戦のセ・リーグの中、首位争いに加わる広島は経験を重ねた選手たちが中心にいる一方、新人ら若手選手も与えられた出場機会で存在感を示している。だが、躍動する若手の中に、昨年102試合出場した21歳、林の姿はない。
開幕から1カ月が経過しても、まだ1度も一軍のグラウンドに立っていない。2月の春季キャンプで狂った歯車を戻せないまま。ウエスタンリーグ開幕から1カ月が経過しても、打率は1割台に沈んでいる。
広島が3年連続Bクラスに終わった昨季、林は小園海斗らとともに希望の光だった。
チーム内でクラスターが起きた5月、一軍に昇格すると、三塁の1番手の座をつかんだ。球団の高卒3年目では9年ぶりとなる2桁本塁打をマークし、主砲・鈴木誠也の欠場時には4番も任された。
チームとしてなかなか固定できなかった三塁のレギュラーがようやく誕生した——。広島ファンだけではなく、球界関係者もそう思ったことだろう。シーズン終了後も、林に期待する声はチーム内外を問わず多く聞かれた。
だが、シーズン終了後の秋季練習では、捕手ながら打力が高い坂倉将吾の三塁挑戦が決まった。林をシーズン途中からスタメンで使い続けた、チームの方針だった。
自分を見失った期待のシーズン
秋季練習初日から半年、両者のコントラストは残酷なほどだ。坂倉は負傷でキャンプに出遅れながらもチーム最多23試合で三塁手としてスタメンに名を連ね、全試合で5番を任されている。20打点はチーム最多だ(数字は5月5日現在。以下同様)。対する林は二軍でも、一時は打順を8番まで下げた。主力の欠場が相次いだ5月上旬にも、一軍から声はかからなかった。
春季キャンプ中、自分を見失っていた。誰よりも多くの助言が飛んでいた。それはチームに欠ける長距離砲としての期待でもあった。当然、本人も自覚してキャンプインし、「ポスト誠也」を目指した。ただ、不器用なタイプが器用にすべてを吸収しようとしたことで、かえって打撃が崩れていったように映った。
「自分の実力不足もあり、キャンプ中に、これだというものを定められなかった。その場しのぎの打撃になっていたように感じます。どういう方向でいったらいいのか。打てなくても、打てても首をかしげている毎日でした」
キャンプ中、紅白戦2試合を含めた実戦では打率.368を残しながらも先発出場の機会は減り、3月に入ると、一軍合流した坂倉にはじかれるように出番を減らした。練習量をこなしながら完成度を高めていくタイプだけに、迷いが迷いを生む悪循環にハマっていたのかもしれない。二軍降格を受け入れざるを得ない状態だった。