「巨人はロッテより弱い」はいかに生まれたか

　試合後、加藤哲は光山とともにヒーローインタビューに呼ばれた。

〈フォアボールだけ出さなかったらね、打たれそうな気がしなかったんで。まあ、たいしたことなかったですね〉と話し始めた加藤哲は、日本テレビの吉田填一郎アナウンサーに〈夕べ、ちょっと睡眠が浅かったとか、そういう風な緊張感もなかったんですか〉と聞かれると、〈今日、寝坊したんですよ。で、ちょっとマズいなあと思いながら〉と笑った。

　その後も、〈全く緊張感はなかったですね〉〈なんてことなかったですね〉〈シーズンのほうがよっぽどしんどかったですからね。相手も強いし〉と言い放ち、〈明日で決めたいですね〉と締めた。

「肩が痛いし、調子悪かったのに結果は良かった。だから、『たいしたことないな』って。シーズン中も、ヒーローインタビューで『ロッテ弱いな』とか『日本ハム全然打たへんな』とか普通に話してましたよ。日本シリーズでも、いつも通りにしゃべりました」

　光山より先にベンチ裏に下がった加藤哲は記者陣から囲み取材を受けた。

「『巨人のピッチャーはすごい』とも話しました。3打席立って、相手が宮本（和知）、槙原寛己さん、水野（雄仁）だったんですよ。槙原さんと水野の球は速すぎて、こんな球打てるわけないやんって。宮本は打てそうな気がしましたけど（笑）。でも、3点入ってるし、もう打たんでええわと思って。そしたらフォアボールやったんかな」

©Naoya Sanuki

　記者は投手陣ではなく、原辰徳や篠塚利夫、クロマティなどを擁する打線の印象を知りたかった。

「『打線はどうでしたか』と聞かれて、『いや全然打たへんな』と答えたら、そっちの話ばっかりになって」

　翌日の新聞には、こんなコメントが掲載されている。

〈今の巨人ならロッテの方が強い。このチームに負けたら西武、オリックスに申しわけないよ〉（読売新聞）

〈この程度の相手に負けたらオリックス、西武に申し訳ない。明日決まるでしょう〉（朝日新聞）

〈この程度のチームに負けていたらオリックスや西武に申しわけない〉〈これならロッテ打線の方が……〉（毎日新聞）

〈（パ・リーグ最下位の）ロッテの方が強いんじゃないですか〉（日本経済新聞）

　これらの表現が、徐々に〈巨人はロッテより弱い〉に変化していった。なぜ、何の関係もない“ロッテ”が出てきたのか。

【次ページ】　巨人陣営の怒り…追い風は逆風に一変した