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「巨人はロッテより弱い」“因縁の日本シリーズ”第7戦…試合前、加藤哲郎を襲った“不気味な空気”「巨人ベンチの僕を見る目が異様でした」
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph byMakoto Kenmizaki
posted2022/05/07 11:06
1989年の日本シリーズ。「巨人はロッテより弱い」という発言が報じられた元近鉄・加藤哲郎氏が振り返る“あの発言の裏側”
「負けるなと思いました。試合前から雰囲気が全然違うんですよ。巨人ベンチの僕を見る目が異様でしたね。今にも噛み付いてきそうな勢いでしたよ。スタンドの視線も同じでした。藤井寺なので観客の人数は近鉄ファンが多いんですけど、圧倒的なアウェー感があって、投げづらかったですね。もちろん、負けたくない気持ちもあった。今日勝てばMVPかなとも考えていました。先に点を取られたらダメだと思い、味方が1点取るまで我慢できるかなと投げたんですけどね」
わずか半月前、優勝の懸かった一戦で全くプレッシャーを感じなかった加藤哲は空気の恐ろしさを実感した。2回に駒田徳広に先制ソロを打たれ、4回にピンチを迎えて降板する。巨人はこの回に3点を追加して4対0と突き放すと、6回に原が2ラン、引退を決めていた中畑清が左中間に代打アーチをかけ、7回にはクロマティがダメ押しソロ。1980年代を締め括るにふさわしい千両役者の活躍で、巨人が8対5で近鉄を下し、3連敗からの4連勝で奇跡の日本一に輝いた。
試合後、巨人ナインと何を話した?
試合後、加藤哲が自宅で食事をしていると、チームメイトで同級生の高柳出己から電話が掛かってきた。
「『(巨人の)勝呂(博憲)さんが今、家に来てるんやけど、哲も一緒に飲まへんか』って。2人は日本通運時代のチームメイトだったんですよ。近所に住んでいたので、すぐ出掛けました。和気あいあいと話しましたね。途中、勝呂さんが吉村(禎章)さんに電話して、僕も喋りましたよ。『吉村さん、いろいろお騒がせしました』『おお。いいよ、いいよ』って。終わってしまえば、割とそんな感じですよ。未だに良く思っていない人も中にはいるでしょうけど(笑)」
抗議が殺到…「カミソリ入りの封書もあった」
近鉄はあと一歩で、球団初の日本一を逃した。加藤哲の自宅にはファンから抗議の手紙が殺到した。
「300通以上届きましたよ。『死ね』と書かれていたり、カミソリ入りの封書もあったりしました。でも、5分の1ぐらいは『よう言うた!』という激励でしたね。中には、『阪神に来て巨人をやっつけてくれ』という内容もありました。当時、阪神がめっちゃ弱かったからでしょう。球団事務所に届いた封書はストップが掛けられて、僕の手元には届いていないので、実際にはもっと多かったでしょうね」