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「巨人はロッテより弱い」“因縁の日本シリーズ”第7戦…試合前、加藤哲郎を襲った“不気味な空気”「巨人ベンチの僕を見る目が異様でした」
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph byMakoto Kenmizaki
posted2022/05/07 11:06
1989年の日本シリーズ。「巨人はロッテより弱い」という発言が報じられた元近鉄・加藤哲郎氏が振り返る“あの発言の裏側”
「『ロッテと比べてどうですか』と聞かれたんですよ。僕は比較が嫌い。自分から『AよりもBのほうが』という言い方は、物心が付いてから一度もしていない。それは、人としてダメだと思ってるから。『ロッテに失礼なんで、そんなことは言えません』と答えました。記者が食い下がってもう一度、同じ質問をしてきたので、『ロッテはある意味盟友ですから、比較はできません。ただ、打線は圧倒的にロッテのほうが怖いです』とは話しました。だから、言ってないこともない。まあ、しょうがないんじゃないですか」
巨人陣営の怒り…追い風は逆風に一変した
加藤哲のヒーローインタビューでのふてぶしい態度、そして翌日の新聞を見て、巨人ナインは怒りで震えていた。近藤昭仁ヘッドコーチは〈山崎とか加藤哲とか二線級のピッチャーにあれだけ言われりゃおこるよ〉〈第7戦を勝ったらこっちも大ボラをふいてやる。顔洗って出直してこいとね。勝負の世界、そんな甘いもんじゃないんだ〉(『スポーツニッポン』1989年10月26日付)と憤慨していた。
「あのヒーローインタビューは全国放送でしたし、当時は日本の50%ぐらい巨人ファンだから、『ウチのチームに向かって何を言うんだ』と怒ったのもあるでしょうね」
読売系列の報知新聞の名物コラム『激ペンです』で白取晋記者はファンの気持ちを代弁するような文章を綴っている。
〈原サンよ、アンタ、ハラ立たんかね? 試合後の近鉄・加藤サンのインタビューを聞いてオレはもう頭にきたぞ〉〈原に限らず篠塚も中畑も頭にきとるだろ? 頭にきてるんなら黙らせろ。黙らせる機会はまだあるんだ。男ならやってみろ。いいたい放題いわれて黙ってうつむいているだけなら、野球選手なんかやめちまえ〉(『報知新聞』1989年10月25日付)
加藤哲は巨人ナインだけでなく、やり場のない巨人ファンに怒りをぶつける格好の材料を与えてしまった。第4戦、巨人の先発・香田勲男が快投を見せる。阪神の4番、セシル・フィルダー対策で習得したスローカーブを有効に使い、緩急のある投球で近鉄打線を完封した。第5戦はシリーズ無安打の主砲・原辰徳に満塁弾が飛び出し、流れは完全に巨人へ傾いた。
シーズン終盤から近鉄に吹いていた追い風は逆風に変わった。
3勝3敗の第7戦。先発・加藤が感じた「空気」
藤井寺に戻った第6戦、巨人は桑田真澄の好投、篠塚のタイムリー、岡崎のホームランで3対1と勝利を収める。近鉄はついに逆王手を掛けられた。第7戦、先発の加藤哲はグラウンドに出ると、奇怪な空気を感じ取った。