プロ野球PRESSBACK NUMBER
「巨人はロッテより弱い」“因縁の日本シリーズ”第7戦…試合前、加藤哲郎を襲った“不気味な空気”「巨人ベンチの僕を見る目が異様でした」
posted2022/05/07 11:06
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph by
Makoto Kenmizaki
「巨人はロッテより弱い」
1989年の日本シリーズ、大混戦のパ・リーグを制した近鉄は勢いそのままに、巨人相手に3連勝。初の日本一に王手をかけた。勝利投手になった加藤哲はヒーローインタビューで「まあ、たいしたことなかったです」と言い放ち、翌日の新聞には「今の巨人ならロッテの方が強い」というコメントが掲載された。“世紀の大失言”はなぜ生まれたのか――。(全3回の2回目/#1、#3へ)※敬称略、名前や肩書きは当時
◆◆◆
「真ん中狙って思い切り投げたら、抑えられそう」(加藤哲郎)
「オリックスや西武の方がずっと怖いですよ」(山崎慎太郎)
「気の抜けるような打者ばかり。相手の作戦なんですかね?」(吉井理人)
本拠地・藤井寺で連勝を飾った第2戦の後、近鉄の若手投手陣は言いたい放題だった(いずれも『スポーツニッポン』1989年10月23日付)。加藤哲が振り返る。
「(若手は)パ・リーグで圧倒的に強かった西武ライオンズに勝った時点で、目標を達成しちゃってるんですよね。だから、『もういいでしょ』という感覚もあったし、『西武に勝ってるんだから巨人に負けないでしょ』と。選手会長の大石(第二朗)さんやエースの阿波野(秀幸)は緊張感や責任感があったでしょうし、日本シリーズを経験していたベテランの栗橋(茂)さんや羽田(耕一)さんは日本一への意識が強かったと思いますけどね」
先発・加藤で勝利。日本一に王手をかけた
移動日の10月23日、午後1時過ぎに東京駅に到着した近鉄ナインはJR総武線で東京ドーム入りした。先発を予想されていた加藤哲は〈何も考えてないですよ。緊張感なんてまるでない。ほんとオープン戦みたいな気分です〉〈巨人は全然迫力感じないですね。クロマティぐらいかな〉(『スポーツニッポン』1989年10月24日付)と強気の発言。同紙には、練習中に大きなあくびをする写真も載っていた。このコメントは本当なのか。
「マジですよ。肩も痛いし、『はよ終らへんかな』ぐらいに思ってましたね」
第3戦、近鉄は初回にブライアントのタイムリーで先制。2回にはシーズン0本塁打の光山英和に2ランが飛び出て、3対0に。先発の加藤哲は6回まで1安打に抑える。7回、クロマティ、岡崎郁に連打を浴びて降板したものの、救援の村田辰美、吉井理人が後続を抑え、近鉄は完封リレーで王手をかけた。