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コインランドリーを求めて街をさまよった4年前…畑岡奈紗23歳は“苦手だったLA”でなぜ独走できたのか?《米ツアー通算6勝目》
posted2022/04/27 06:00
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
Getty Images
ロサンゼルスは畑岡奈紗にとって、必ずしも幸運が訪れそうな土地ではなかったという。
ダウンタウン中心部から少し東にあるウィルシャーCCでのLAオープンに、初出場したのはプロ2年目の2018年。大会初開催の年だった。
欧米のプロツアーの試合はそれぞれ、大会側が期間中の宿泊をサポートしてくれるケースが多い。指定のオフィシャルホテルを割安で提供してくれる。当時19歳。「LPGAツアー2年生」だった畑岡は母・博美さんとの転戦中、ロサンゼルスでこのサービスを利用。しかし、これがまずかった。
「イメージは渋滞と夜まで“どんちゃん騒ぎ”」
滞在したのは映画ファンなら垂涎のハリウッドのど真ん中、TCL チャイニーズシアターの目と鼻の先にあるホテル。賑わいは深夜まで続き、畑岡は睡眠不足の毎日を過ごした。館内に洗濯機が設置されておらず、20歳前の少女はコインランドリーを求めて街をさまよい……。「思い返すと危なかった。(最近は)街中を歩きながらたまに後ろを振り向いたりするんですけどね」
ちなみにホテルのバスルームではシャワーのお湯も思うように出なかったとか。
「(渋滞続きで)レンタカーはあってもなくても不便……。コース外でストレスを結構感じたし、コースも難しくて来たくないなあ……って」
それから3年は大会に足が向かなかった。当時の印象が年間のスケジュールづくりに影響したと言っても過言ではない。
今季はスタートダッシュに失敗
例えば、匂うことすら嫌だった食べ物が、大人になっておいしく感じられるように、数年来にわたって苦手だったあの人と突然、馬が合うように。年月を経て、心境や状況が一変する不思議はゴルフにもある。
6年目を迎えた今季、畑岡はスタートダッシュに失敗した。
開幕戦のトーナメント・オブ・チャンピオンズは今年、新たにフロリダ州オーランドのレイクノナG&CCで行われた。畑岡にとってはここ数年、練習拠点にしてきたホームコース。意気込んで臨んだ試合はアドバンテージを生かせず29人中18位と低迷した。
消化不良のままシーズンは進み、3月初旬のアジア2連戦(シンガポール、タイ)で「飛距離が出ない」と技術的な問題が顕在化した。ショットの精度を高めるべく、インパクト前後で手首の動きを過度に使うようなスイングから、体全体を大きく使う動きへのシフトチェンジを試みるうちに、調子は乱高下を繰り返した。
「今年が始まってから4日間安定したプレーができていなかった」
出場8試合でトップ10入りはおろか、1ラウンド60台のスコアが3日続くことがなく、2日連続でマークできたのも3試合だけ。4月半ばのハワイでのロッテ選手権ではついにシーズン初の予選落ちを喫した。