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コインランドリーを求めて街をさまよった4年前…畑岡奈紗23歳は“苦手だったLA”でなぜ独走できたのか?《米ツアー通算6勝目》
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byGetty Images
posted2022/04/27 06:00
LAオープンで米ツアー6勝目を挙げた畑岡奈紗。2018年以来となるLAの地での戦いで圧巻のゴルフを見せた
その翌週、LAオープンの舞台、ウィルシャーCCは開場から100年以上が経つコンパクトなクラシックコース。距離はないが、グリーンに近づけば近づくほど、プレッシャーが増す。畑岡は目下の課題を「100ヤード以内のプレー」と踏んでおり、それこそが世界トップとの差、そして悲願のメジャー優勝へのカギと睨んでいる。
直前に修正を施してきたとはいえ、ロサンゼルス入りしてもまだ自信がなかった。4アンダーの2位でホールアウトした初日を終えた段階でもそうだった。
それが2日目前半のフェアウェイ上で、アドレスしたときに「ボールに近づいてみよう」と体と球との距離を狭めてクラブを振りぬくと、雷に打たれるような衝撃があった。
「ちゃんと上からクラブが入った」
狙ったエリアをオーバーしたことも、この上なく嬉しかった。思い通りの、番手なりの距離が戻ったからだった。
次のホールからは、あちこちに散らばっていた自信が、一枚一枚集まり、折り重なるように積みあがっていった。「ドローも、フェードも打ち分けができる」。
3日目に世界ランク1位のコ・ジンヨンと緊張感のある最終組でのラウンドで67をマーク。4打リードで迎えた最終日も後続を一切寄せ付けなかった。
“アウエー”の空気の中で決めたイーグル
最終組で一緒に回ったオーストラリアのハンナ・グリーンのプレーにも目を配りながら、畑岡は他選手の動きを読むため耳を澄ましていた。コースはコリアンタウンに“ほぼ”隣接しており、3日目のコとのラウンドはさながら日韓対決で、アウエーの空気を感じ取っていた(ちなみに前週、ハワイでのロッテ選手権はキム・ヒョージュと渋野日向子が争い、こちらは日本人の声援の方が多かった)。
前で回る組には韓国の実力者がズラリ。差をつけていたとはいえ、彼女たちのスキルや爆発力は痛いほどに知っている。見えない敵の動きが気にならないはずがない。
「今週は韓国の方のファンも多かった。(他のホールの)歓声で、ある程度どうスコアが動いているかと思っていた。でも、後半はそれほど盛り上がっていなかったので、自分が伸ばせれば大丈夫かなと思っていました」
安心感をもたらしたのはコースに流れる穏やかで、静かな空気。
ロングパットを神がかり的に沈めた15番でイーグルを奪い、勝負を決めた。最終18番をボギーにしても悠々と5打差をつけて逃げ切り、シーズン初優勝を飾った。通算6勝はすでに17勝の岡本綾子、9勝の宮里藍に次ぐ日本勢3番目の勝利数だ。