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「三笘薫は天才肌、田中碧と旗手怜央は…」“32歳で指導歴10年超”吉田勇樹コーチに聞く「フロンターレから逸材が生まれるワケ」
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byKAWASAKI FRONTALE
posted2022/04/13 17:45
2017年、当時プロ1年目の田中碧(写真右)らと笑顔でトレーニングに励む川崎フロンターレの吉田勇樹コーチ
「いかに『もがかせる』か。それが仕事です」
そんな王者の選手層を裏で支え続けているコーチングスタッフの1人が吉田である。
例えば試合当日の午前中であれば、メンバー外になった選手たちのトレーニングを戸田光洋コーチとともに担当する。いわゆる「居残り組」と言われる少人数で行われる練習で、個々のモチベーションは決して高くはないのが普通だ。その中でいかに刺激を与えるメニューを組むことができるか。それが腕の見せ所となる。
「とにかく『この1時間半で何かを得てほしい』って話は常にしています。もちろん、メンバー外の選手だとモチベーションの差も出てくるし、気持ちは難しいと思うんですけど、そういう選手にも楽しみながらやってほしい。ウォーミングアップやボール回しにしても、いつもとは違う要素を入れるようにしています」
居残り組となった選手からすれば、当日の試合に出られない現実は変わらない。その期間が長くなると、練習中に愚痴や不満をコーチに漏らしたくもなるだろう。だが、そうした状況とどう向き合うのかが、選手としての分岐点になる。だから、選手に対する吉田のスタンスは一貫している。
「選手には『愚痴っていても変わらないよ』、『評価は自分がするものじゃない』、『そういう(試合に出られない)評価をされているなら、やるしかないよね』とよく言います。だから、そうした状況でもやる気になるような環境づくり。そこは意識してやっていますね」
鬼木監督やクラブレジェンドである中村憲剛氏がよく口にする「自分に矢印を向ける」という考えだ。試合に出られないことを他人のせいにするのではなく、自分の力に変えて成長していく。だから居残り組の練習では、彼らをとことんまで「もがかせる」のだと吉田は言う。
「いかに『もがかせる』か。それが仕事ですね。そこからもがいて、もがいて、もがき切って試合に出て……。でも、そうやってもがいてきた選手の方が活躍できているなって思っています」
それだけに、麻生グラウンドでもがき続ける姿を間近で見てきた若手が、ふとしたチャンスを掴んで活躍し始めると、吉田の喜びもひとしおだ。現在のレギュラーならば脇坂泰斗や橘田健人がそうで、今や日本代表の主力となった田中碧もそうだった。