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敏腕の女性栄養士がリバプールを変えた… 名将クロップも「ワールドクラスの補強」と絶賛の食事改革〈食堂には肉の熟成庫〉
posted2022/04/05 17:00
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph by
Getty Images
食事は選手にとってガソリンだ。できる限り良質な物を口にした方がいい。だが好みや習慣は幼い頃からの積み重ねで、改善するのは簡単ではない。ユルゲン・クロップはリバプールに来たとき、選手たちの食事に対する意識の低さに頭を抱えた。
これを解決するために招聘したのがモナ・ネマーだ。モナはスポーツ栄養学の修士号を取ったあとに調理師の資格も取り、アンダー世代のドイツ代表を経て、2013年からバイエルンで働いていた。クロップは'16年夏に彼女を引き抜き、栄養部門責任者に任命する。シェフら約20人を束ねる大役だが、バイエルン時代にペップ・グアルディオラからも高く評価されたモナの戦略はシンプルだ。
「私の仕事は選択肢を豊富にし、選手が自ら学びたくなるシステムを作ること。強制や禁止は一切しません」
食堂には肉の熟成庫まである
まずモナは食材集めから始めた。英国中を飛び回り、鹿肉などのジビエ、近海の魚、無農薬の牧草で育った牛、トウモロコシで育てられた平飼いの鶏、季節物の野菜を調達。食堂には肉の熟成庫まである。
モナはニューヨークタイムズ紙のインタビューでこう語った。
「牛や鶏がどんな環境で育てられたかはすごく大事。高い栄養価を取れるように、本物の食材にこだわっています」
保存料や添加物を口にしないために、ドレッシングやソースは手作り。目で楽しめるようにシリアル食品だけでも20種類が用意されている。
高級オーガニックレストランのような食事が供されたら、誰でもテンションが上がるだろう。選手たちは食事改善にどんどん前のめりになっていった。