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南野拓実に出番なしもリバプールが今季初タイトルを獲得! 「国内第2」のカップ戦決勝が「120分間、立ちっぱなし」の極上の一戦になった理由
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2022/03/03 17:01
死闘の末にチェルシーを下したリバプールが9度目のカップウイナーに。両チームの質の高い攻防は決勝に相応しいものだった
対するリバプールのファンも、「どしんと尻餅」と「デンバ・バに献上」に変えられた歌詞に対抗して、「40ヤード級パス」と「デカくて猛烈に強力」と歌われるオリジナルのチャントで反撃していた。だが、ミレニアム・スタジアムでの一幕では「ジェラードよ、お前しかいない!」と合唱する相手ファンの歌声だけが響いていた。
スタンドには青と黄色のウクライナカラーも
今回、3度目の決勝で実現した勝ち負けを超えた意味と魅力を持つ戦いは、状況的にも歓迎されるべきものだ。ロシアによるウクライナ侵攻は、筆者のような欧州在住日本人にとっても身近な問題に感じられる。
ウェンブリーに向かう電車の中では、チームカラーを身にまとう親子の姿を見ながら、ニュースで観たウクライナ人親子が駅で泣き叫ぶ光景を思い出さずにはいられなかった。記者席に着くと、リバプール陣営のスタンドには、赤い弾幕の数々に混じって青と黄色のウクライナカラーも1枚。「ユール・ネバー・ウォーク・アローン」と手書きの文字もあった。ロシア人オーナーが英国政府による私財凍結処分候補と目される一方、ユダヤ人コネクションを通じたウクライナ側の要請でピースメイカー役を引き受けているとの説もあるチェルシー陣営にも、スタンドでエンブレム入りのブルーとイエローのプラカードを掲げるファンがいた。
普段はサポーター心理が顔を出す発言が当たり前の記者席でも、晴れた日曜にサッカーの決勝戦を観ることのできる平和への感謝を新たにしたのだろう、「とにかく良い試合であってほしい」と願う意見が多かった。
そして試合後には本当に「いい試合だった」と言葉を交わすことができた。スポーツを「銃撃のない戦争」と表現したのは、英国人作家のジョージ・オーウェルだが、この日の決勝は、勝ちたいがための邪悪とも言えるネガティブな行為とは無縁だった。
リバプールの旅路には国内外4冠という終着点も
さすがに笑顔はなかったが、「観たいと願う試合そのもの。関わることができて嬉しく思う」とリモート会見で口にしたトゥヘルの一言は、敗軍監督としての悔しさではなく、サッカー好きな人間としての喜びが言わせたものだ。
一方、優勝記念の赤いTシャツを着て、笑顔満開で画面に現れたクロップは、「集団としての旅路」の勲章として今季初のタイトル獲得を喜んでいた。今回の優勝で勢いを増すリバプールの旅路には、国内外4冠という終着点も予想されている。
今シーズンの最終戦となるCL決勝で、「リハーサル」との声もあった今回と同じカード、リバプール対チェルシーの再戦となれば、ロシアに対する処分としてサンクトペテルブルクからパリに開催地が変更された5月の決勝に相応しい欧州頂上決戦となるに違いない――。
そう思わせるほど極上なリーグカップ決勝戦だった。