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「自分はもう終わりだと思いました」“永瀬すぎる”振る舞いの裏に知られざる苦難…柔道81キロ級金・永瀬貴規(31歳)が陥った「東京後のスランプ」
posted2024/10/20 11:02
text by
小松成美Narumi Komatsu
photograph by
Nanae Suzuki
パリオリンピックでは、永瀬貴規をはじめ、日本人選手の立ち振る舞いが注目を集め、称賛された。しかしその一方で、特定の選手や審判に対する誹謗中傷も際立った。まさにSNS時代を象徴する現象である。
たとえば、誰もが金メダルと信じていた女子52キロ級の阿部詩(24歳)が2回戦で敗退し、泣き叫んでいたことにも容赦のない批判が相次いだ。
東京オリンピック以後、常に2大会連続金メダルを期待されてきた永瀬は、こういった風潮をどう感じているのだろうか。
「賞賛やその対極にあるバッシング。オリンピックは多くの方に見られているからこそ、良くも悪くも感情の沸点を低くするのだと思います。注目していただけることは、本当に有難いことです。けれど、パリオリンピックでは、東京以上の熱視線、エネルギーを感じていました。オリンピックでメダルを目指す以上、周囲からのプレッシャーやそれによって生まれるストレスにも耐える以外ない。私はそう考えています」
リオ五輪では銅メダルも…満足いく結果は出せず
柔道に限らず、スポーツ競技の日本代表は勝てば絶賛され、負ければ地に落とされる存在である。尋常ではないプレッシャーやストレスに抗する驚異の精神を培った永瀬。永瀬を「最強たらしめた」ものは、選手生命をも危ぶまれた大怪我だった。
2016年、オリンピック初出場となるリオオリンピックで金メダルを狙うと宣言した永瀬だが、準々決勝で敗れた。敗者復活戦を勝ち上がり、3位決定戦で勝利し銅メダルを獲得したものの、到底満足のいく結果ではなかった。
東京オリンピックで金メダルを目標に動き出し、同年12月のグランドスラム・東京で優勝を果たす。
しかし、2017年8月の世界選手権4回戦で、永瀬の世界は暗転する。ウズベキスタンのダブラト・ボボノフとの対戦で膝に大怪我を負ってしまうのだ。
「大内刈りをかけたんです。大内刈りは、相手の懐に入って内側から足を払って倒す技で、かけられた相手は、たいてい投げられまいとして体を捻り、倒れ込んで逃げます。もちろんボボノフもそうしたのですけれど、あのときは私の膝が残って、ボボノフの全体重が右膝に乗っかってしまったんですよ」