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有馬記念でのラストランへ…クロノジェネシスを“誰よりも知る”北村友一の告白「負けたら乗り替わりになると告げられていた」 

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軍土門隼夫

軍土門隼夫Hayao Gundomon

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posted2021/12/25 20:00

有馬記念でのラストランへ…クロノジェネシスを“誰よりも知る”北村友一の告白「負けたら乗り替わりになると告げられていた」<Number Web> photograph by Photostud

今年の宝塚記念では、負傷の北村からルメールへ乗り替わるも、見事に連覇を達成

テレビ越しに見たクロノジェネシスの姿

 骨折は頸椎3本、胸椎7本、腰椎1本、それに肩甲骨。大手術から1カ月と3週間の入院を経た北村が、背中にボルトが8本入った状態で退院したのは、宝塚記念の3日前のことだった。

 北村に替わって代打のクリストフ・ルメールが騎乗したクロノジェネシスは、好位から直線で抜け出し、2馬身半差の完勝で宝塚記念を連覇。有馬記念とあわせてグランプリ3連覇の偉業を成し遂げた。

 北村はテレビ越しに、クロノジェネシスはまた成長している、と感じたという。

「パドックでも、クリストフが跨ってからも、ゲート裏でも、少しずつ映ったシーンで、それはわかりました」

 レースは北村に、大きな刺激を与えた。

「僕が知るのとは違う、新たなクロノジェネシスを見たと思いました。僕だったら3コーナーでキセキが動いたときに外からいっしょに上がって、そのまま押し切りにいったと思います。でもクリストフはあえて一度我慢して内に入れて、レイパパレの後ろから抜け出しました。僕も固定観念や先入観は持たず、馬からもらう刺激や周りの空気を感じて乗ることは意識しているつもりでしたが、クロノジェネシスに対してはいつの間にかそういうものを作っていたんだと気づかされました。そしてクロノジェネシスにとっても、違う勝ち方ができたのはすごくいいことだなと思いました」

「クロノジェネシスのことは心から応援しています」

 レース後は、すぐに斉藤から北村に電話がかかってきたという。

「一緒に喜びたかった、と言ってもらえて。もう、何よりも嬉しかったです」

 入院中はテレビで競馬を見ると焦りの気持ちが生じたが、現在はまた違うという。

「へんな感覚なんです。壁にかかったカレンダーの去年の宝塚記念の写真を見ても、それが自分だという実感がないんです。どこか他人事みたいな。何なんでしょうね」

 現状の復帰目標は、ざっくり来年前半。一方、クロノジェネシスは所属クラブの牝馬に関する規定で、現役は最長でも来年3月までで、恐らくは有馬記念がラストラン。事実上、もう北村が乗ることはない。

「クロノジェネシスのことは心から応援しています。そして僕は僕で、次のクロノジェネシスのような馬に巡り合うため、この期間にどうやって自分を成長させて戻ってくるかにフォーカスしています。どのお医者さんも、これほどの怪我で後遺症なく復帰できるのは奇跡だと言います。騎手として生かされた命だと思って、そしてもっと自分を高めなければいけないと、クロノジェネシスに教えてもらったことを忘れないように、頑張っていくつもりです」

クロノジェネシスの最大の武器

 取材は別々に行ったが、斉藤と北村にはそれぞれ、クロノジェネシスの最大の武器は何だと思うかという質問をした。

「真面目に一生懸命走ることです。とにかくどこでも、どんな馬場でも真面目に一生懸命走る。そこは凄いなと思います」

 斉藤はそう答えた。

 そして北村も、同じ答えだった。

「本当に一生懸命走ってくれるんですよ。ゴーサインを出したら、あとは最後までとにかく頑張って走りきってくれるんです」

 聞いていて気づいた。

 斉藤や北村と同じじゃないか、と。

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