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有馬記念でのラストランへ…クロノジェネシスを“誰よりも知る”北村友一の告白「負けたら乗り替わりになると告げられていた」
text by
軍土門隼夫Hayao Gundomon
photograph byPhotostud
posted2021/12/25 20:00
今年の宝塚記念では、負傷の北村からルメールへ乗り替わるも、見事に連覇を達成
「あの馬のことをいちばんわかっているのは北村さんですよ」
北村友一に取材することができたのは、9月半ばのことだった。
5月に落馬事故で大怪我を負い、復帰まで1年と診断された北村は、始まって間もないリハビリ生活の真っ只中にいた。取材場所に一人で現れた北村は「やっと車も運転できるようになったところなんです」と明るく言った。6月下旬に退院し、コルセットが外れたのがこの3週間前。まだ背中は痛み、ゆっくり慎重にしか歩いたり動いたりはできないが、それでも一通りの日常生活は送れるようになっていた。
じつは斉藤調教師にクロノジェネシスの話を聞いている中で、斉藤が「あの馬のことをいちばんわかっているのは北村さんですよ」と断言した瞬間があった。その口調は熱く、確信がこもっていた。
「デビュー前の追い切りから始まって、全部のレースに関わってきたことが積み重なって今のクロノジェネシスがあるんです。北村さんがいたから、今のクロノジェネシスがある。それは間違いないです」
取材の初めにそのことを伝えると、北村は心から嬉しそうな笑顔になった。
「嬉しいですね。もちろん馬のことは斉藤先生の方がよくわかっていますよ。でも、そう言ってもらえる、信頼してもらっているというのは、本当に嬉しいです」
北村が“忘れられないほど悔しかった”阪神JF
斉藤の言葉通り、北村とクロノジェネシスの関係は新馬戦の追い切りで始まった。
「その時からいい馬だなと思いました。でもレースで感じた能力はそれ以上だったんです。それですぐに、この馬はずっと乗り続けたいので、どこへ遠征するにしてもお願いしますと斉藤先生に伝えました。次のアイビーSも勝ち方が僕の想像以上で、自分が新馬戦で感じた、あの感覚は間違いじゃなかったんだ、と思いました」
だからこそ、GIを勝てなかった悔しさは大きかった。桜花賞もオークスも勝ちたかった。でも忘れられないほど悔しいのは阪神ジュベナイルフィリーズだという。
「当時、僕はまだGIを勝ったことがなくて、だからこそ僕のせいで負けちゃいけないと思って臨みました。でも結局、出遅れて外を回って、能力を出しきれず2着に負けてしまって。勝ったダノンファンタジーはクリスチャン(・デムーロ)が完璧に乗っていて、馬の差ではなくジョッキーの差だと思わされました。その後しばらくは、自分はもっとレベルアップしなくちゃいけない、と思いつめていた気がします」