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このポスター、選手が作ったの? 異色の“デザイナー兼Vリーガー”が伝えるチームの魅力「バレーボール以外でも力になりたい」
text by
市川忍Shinobu Ichikawa
photograph bySafilva Hokkaido
posted2021/12/16 06:01
札幌市内の街中にポスターを見つけ、笑顔で写真に収まる柳川大知。仕事をしながらプレーする仲間たちの思いをデザインに込めた
柳川は名東高校から愛知教育大を経てつくばユナイテッドSunGAIAに進んだ。
「高校時代は3年生になる直前の3月に、早々にバレーボール部を引退したので、その後はずっと美大進学を目指してデッサンばかりしていました。でも第一志望、第二志望の美大に落ちまして、浪人はできなかったので唯一、合格していた愛知教育大のデザイン科に進学したんです」
大学ではプロダクトデザインを専攻。同時にバレーボール部にも入部した。在学中はバレーボール部の活動と同時に、課題や卒業制作にも真剣に取り組んだ。プロダクトデザインの課題では学科内3位に入賞。その他にインテリアデザインのコンペで受賞するなど、デザイナーとしての力を着々とつけていった。しかし部活動を続けるうちに、思いのほかバレーボールに熱中し「トップリーグでプレーしたい」と、卒業後はVリーグ2部のつくばユナイテッドSunGAIAに入団する。
そしてつくばに6シーズン、在籍したあと、タイのプロリーグに挑戦するために単身、タイに渡った。
「大学でバレーボールをやっているときも、つくばに入ったあとも『できるならトップでやりたい』と上を目指していました。当初、世界最高峰のヨーロッパでプレーすることを目指したんですが、それが叶わなくてタイに行ったという感じでした」(柳川)
タイ観光局のキャンペーンに参加
しかし、そのタイで再びデザインの楽しさに出会う。
「タイでの2シーズン目、コロナ禍で日本に帰れなくなりました。その時期、知り合いの日本人が働いている広告代理店で『アートディレクターが足りない』と聞き、手伝うことになったんです。僕がデザインを学んでいたことを知っていて『何かアイデア出してみないか』と言われたのですが、提出した企画が採用されまして……」
柳川が手伝ったのはタイ観光局による、観光客を増やすためのキャンペーンだった。
「当時、コロナの流行が始まったばかりで、世界中が混乱していました。感染経路もまだはっきりわからない中で、それでも感染者との接触はダメだと言われていた時期。握手やハグはダメでも、タイには“WAY”という、手を合わせてお辞儀をする挨拶の方法があるんです。握手やハグはできないけれど、安全な“WAY”だったら感染の心配がないという部分をクローズアップして、“WAY”を通じてタイの文化を知ってもらい、コロナ禍が終息したらタイに観光に来てもらおうというキャンペーンを提案しました」
残念ながら新型コロナ感染症の拡大が急激に広まり、そのキャンペーンは完成する前に終了することとなった。しかし、何もないところからアイデアを生み出す瞬間や、そのアイデアが徐々に形になっていく過程は、柳川にとって楽しい時間だった。結果的にこの出来事が、柳川がクリエイティブな職業への熱を思い出すきっかけとなった。