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イブラヒモビッチが指名した「クソみたいなクラブ」ミランが再起 11季ぶりのスクデット獲得も夢じゃない
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2021/12/11 17:03
10月に40歳となったイブラヒモビッチが、11季ぶりのスクデット獲得を目指すミランを牽引している
30歳の新人MFがチームの救世主に
ど根性でいえば、30歳の新人MFジュニオル・メシアスを忘れるわけにはいかない。
一度はプロの道を諦め、6年前までアマリーグでプレーする傍ら、家電量販店の冷蔵庫配達が本業だった。昨季クロトーネで見せた泥臭いプレーが買われて、三十路にして名門ミランに加入。しかし、開幕からコンディション作りに出遅れた。秋に入っても筋肉故障が続き、うるさ型の古参ファンからは「ミランに相応しくない」と陰口を叩かれた。
しかし、FW陣に故障者が続出した11月下旬、戦線復帰2戦目かつCLデビュー戦だったA・マドリー戦で値千金の決勝ヘディング弾を奪い、一躍チームの救世主になった。
さらにシーズン初先発となったジェノア戦では、かつてのレジェンド、シェフチェンコの前で2得点と大暴れした。
クラブの歴史を彩ってきた過去の同胞テクニシャンほどは上手くはないけれど、2021年の暮れ、サン・シーロの南側ゴール裏を苦労人のブラジル人アタッカーが熱くさせている。
ピオリ流の「4-2-3-1」は、すっかりミランに浸透した。
主軸を担うのは10番を背負うMFブラヒム・ディアスや中盤のハンドリングを掌握したMFサンドロ・トナーリといった若手レギュラーだ。
それでも、ミラノ・ダービーでPKを見事セーブした第2GKチプリアン・タタルサヌや、あらゆるポジションに活用される便利屋ラデ・クルニッチといった伏兵たちの貢献ぶりも小さくない。
“全員レギュラー”を謳うチームは多いが、今季のミランは特にその傾向が強いのだ。
イブラはナポリ入団を白紙にしてミランへ
今月2日、イブラヒモビッチは新たな著書を発売した。
『アドレナリン』と銘打たれた本には、ミランへの復帰を決めた舞台裏が書かれている。
それによれば、ズラタンはLAギャラクシーでのシーズンが終わった19年の秋に一度、現役を引退するつもりだったらしい。
その決意は固かったが、敬愛するマラドーナのドキュメンタリーを偶然見たことで「俺がナポリを優勝させる!」と引退を撤回。当時、ナポリを指揮していたのがパリSG時代の指揮官カルロ・アンチェロッティだったこともあり話はトントン拍子に進んだ。ところが、19年12月11日のサイン当日、ナポリのアウレリオ・デラウレンティス会長は監督を突如解任し、不信感を抱いたイブラはナポリ入団を白紙にした。
ただし、一旦火がついた闘争心はもう収まらない。
「俺様の血管が沸騰するような挑戦をもってこい! そうだ、クソみたいに悲惨な状況のクラブがいい! どこかないのか?」
代理人ミノ・ライオラが即答したのが「ミラン」だった。