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「だから表舞台から黙って消えて…」人生言いたい放題のイブラヒモビッチが明かした“引退=小さな死”への本音

posted2021/12/11 17:02

 
「だから表舞台から黙って消えて…」人生言いたい放題のイブラヒモビッチが明かした“引退=小さな死”への本音<Number Web> photograph by L’Équipe

2016年のEUROを最後にスウェーデン代表から引退したが、今年3月に5年ぶりに代表復帰。W杯予選グルジア戦に出場し、アシストを記録した

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 ジョアン・タボー、トマ・シモン記者によるズラタン・イブラヒモビッチインタビューの最終回である。ふたりの記者の追及は止まらない。人種差別や国家主義とグローバリズムといった社会・政治的な分野にも分け入っていく。政治には関わりたくないイブラ(イブラヒモビッチの愛称)に、両記者はさらなる矢を放とうとするが、すんでのところでイブラが回避し、記者たちも矛先を収めた。

 人間であること――人であり社会的存在であることが前提のうえでのアスリートなのか。それともアスリートであるのは人間と社会の問題からは切り離されているのか……。アスリートの部分を置き換えれば誰にも当てはまる、古くて新しい問題をイブラは私たちに投げかける。そしてイブラ自身は……。

 すべてを自分が自分であることから始められる人間が、この世界にどれほどいるのか。情報が奔逸し、情報と接していることでアイデンティティを確保していると思い込んでいる人たちが多数を占める今日の日本社会では、自らの前提を定義できる人間は極めて少ないだろう。そうであるからこそ、イブラの言葉には大きな価値がある。(全3回の3回目/#1#2へ・肩書や年齢などは『フランス・フットボール』誌掲載当時のままです)

(田村修一)

スウェーデンへの思い

――あなたに『愛されたいのでしょうか?』と尋ねたとき、思い起こしたのはあなたがスウェーデン国歌を諳んじていることです。国民ともひとつになりたいという意志を感じましたが間違っていますか?

「小さな子供のころは自分がスウェーデン人だという意識はなかった(註:イブラヒモビッチの父親はボスニア人、母親はクロアチア人)。両親は僕が人とは違うことを分からせようとした。僕は人と違ったふうに扱われたし、違ったふうに見られた。人とは違うと判断された。だから自分が100%スウェーデン人だとは思えなかった。そう育てられたんだ。だが、もし両親が僕を他の親たちと同じように扱っていたら、僕も自分は100%スウェーデン人だと感じただろう。

 今は違う。今の僕は自分が100%スウェーデン人だと言える。もっと若いころは違う感情を抱いていたが、年齢を重ねて経験を積み僕は100%スウェーデン人になった。新しいスウェーデン人だ。それは新しい世界でもある。

 フランスでも同じだろう。昔ながらのフランス語を話す人々もまだいる。今は2021年だというのに! 世界は混じりあい、さまざまなコントラストに溢れている。でもそれは、あなたが自分を100%フランス人とは感じていないからでも、誰かが自分を100%スウェーデン人と感じていないからでもない。若いころはそんなことはわからない。いろいろなものを学び、理解する術を得るための情報を得てはじめてわかることだ。少しは経験を積んだわけだ。

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