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落合博満監督の“賛否と神采配”伝説 「そうだ相手は落合さんなんだ」「素材に恵まれた選手に出会えて幸せだよ」
posted2021/12/08 17:03
text by
NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph by
Hideki Sugiyama
<名言1>
プロに入ってくる以上は、必ず何かいいものを持っているはずだから、すべて自分の目で確かめたいんだ。
(落合博満/Number614号 2004年10月28日発売)
◇解説◇
1998年限りでバットを置いた落合は、解説者としても“オレ流”というキャッチコピーで打撃論を披露した。その立場の落合を見続けることになるのだろう……と野球ファンの誰もが思っていた中で、驚きのニュースが入ったのは、星野仙一監督率いる阪神タイガースがリーグ優勝を果たした2003年秋のことだった。
中日ドラゴンズ新監督に、落合博満氏が就任――。
この年、山田久志監督体制2年目のチームは阪神に大きく離されての2位だった。とはいえ立浪和義や山本昌が円熟期に入り、谷繁元信や福留孝介、岩瀬仁紀らが全盛期を迎え、井端弘和や荒木雅博らが主力化するなど、チームとしての地力はついていた。
しかし3度の三冠王を獲得している孤高の打撃職人が、果たしてチームを束ねられるのか。そこを懸念材料として見る向きもあった。
選手にもオレにも財産になって明日の中日を作っていく
しかし落合新監督は「個々の選手を10%底上げする」と宣言。補強、戦力外通告ともにゼロという異例の人事を取って新シーズンを迎えた。そこには冒頭の名言にあるように、落合が現有戦力のポテンシャルを見て、力を発揮させたいとの思いがあったのだろう。
中日は6月の7連勝などで首位に立つと、79勝56敗3分で5年ぶりのリーグ優勝を果たす。17勝で最多勝に輝いた川上憲伸、岩瀬の22Sなどリーグ唯一のチーム防御率3点台(3.86)、1番セカンド荒木、2番ショート井端の「アライバ」定着に加えてリーグ最少45失策など、手堅いディフェンスを土台にするスタイルの原型が数字でも見えていた。
西武との日本シリーズは第7戦までもつれたものの、3勝4敗で日本一には輝けなかった。しかし落合は後にこう語ったという。
「この経験は、選手にもオレにも財産になって明日の中日を作っていくだろう。素材に恵まれた選手に出会えて幸せだよ」
1年目から名将感を漂わせた落合。しかしそのシーズンオフ、開幕投手を務めた川崎憲次郎を筆頭に入団2年目の若手選手など13人に戦力外通告をしたのだった。
そして年を経るごとに、落合監督の言葉は少なくなっていく。